私は一度、こんな噂を聞いたことがある。 「エイリア学園には同性愛者が多い」 あながちそれは間違っていないかもしれない。事実、私は同性愛者ではないが両性愛者である。いわゆるバイセクシュアルなのだ。 そんな目で見ると皆が皆そう見えてくる。グラン様だとか。まあマキュアとアイシーは確定、だって猛烈なプロポーズを受けているから。 でも私は申し訳ないことに彼女らには興味がない。すでに好きな人がいるのだ。 そんなことを自室でポテチをつまみながら考えていると、あまり遠慮していないノックの音がした。 「はーい」 「起きてる?」 「レアン。うん、まだまだ起きてるよ」 がちゃりとドアが開いて、レアンのどこか真剣そうな顔が覗いた。 「どしたの、やけに真剣そうじゃん」 「そう?…ところで、あんたコンソメ派なの」 「食べる?」 「残念、あたしはわさビーフ派」 まあなんてマニアックな。 とりあえず彼女を部屋に上げ、ピンクのクッションの上に座らせる。ちなみにバーラと買いに行った物だ。 「何か悩んでんの」 「…別に」 ふてくされた顔で、レアンは私のポテチをバリバリ食べていく。あれ、さっきわさビーフ派とか言ってなかったっけ。 「なーんか悩んでそうに見えるけどなあ。あっ、恋愛系?」 「うるさい!」 どうやらかけたハッタリは図星だったようで、レアンは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。ついでに手の中からバリッという不吉な音。おそらく、残りのポテチは粉砕されてしまっただろう。 「言ってみなよ、場合によっちゃ私もショックだし」 「それって、」 「あーあー!やっぱ何でもなーい」 よっこらせ、とおっさんくさい掛け声で立ち上がり、ベッドのポールに掛けておいたビニール袋からポッキーを取り出してレアンに渡す。多分これで落ちるはず。 案の定レアンは遠慮なしにパッケージを開け、ポッキーを三本口に突っ込んだ。 「あたし、…失恋したかも」 「…はい?つまり、フラれたと」 「まだ未確定だけど。相手が相手だから言えないし」 レアンが喋る度にポッキーのプレッツェルだけの部分が上下に揺れる。何だか私も食べたくなってきて、レアンの手の袋から二本引き抜いた。 「初めて、好きになった相手でさ。でもそっちにはそっちの好きな人がいるってさ」 「誰が言ってたの?」 「マキュアとアイシー」 マキュア、アイシー…まさか。余計なことを口走っていないだろうか。 どうなんだろうと思いレアンの顔を見る。 「ねえ、その…偏見とか無しにさ、好きな相手って、…女?」 「なっ、そ、そんな訳無いわよ!」 「正直に言いなよ、私なんてバイだし」 「ば、バイ…?」 「バイセクシュアル、両性愛者。つまりどっちもいけちゃうわけ」 ぼとり、レアンの手からポッキーの箱が落ちた。 ついでにレアンの口内のポッキーが全部折れた。ポッキーのプレッツェルの部分が箱の無くなった手の中に落ちる。 私はそれを指で掴んで、自分の口の中に放り込んでもぐもぐ。食べながら自分の手にはまだかじってすらいないポッキーがあることを思い出した。 「間接キスー」 「あっ、ちょ!ちょっと!」 レアンが私の腕を掴む。口をへの字に結び、うっすら潤った涙目が私を見つめる。 さっきから紅潮はしているけれど、そこに涙目が加わると物凄く破壊力が高かった。ちょっと、鼻血が出ちゃいそう。 「…ねえレアン。もし私がレアンのこと好きって言ったらどうする?」 「そっんな!冗談でしょ?ね、冗談でしょ…?」 「そこは想像に任せるよ。だって、もし、の話でしょ」 レアンの目を見て、きちんとした顔ときちんとした声で言う。 むこうも、頬こそ赤いけれど真面目な目をして私を見てくれた。 「あんなこと言ったけど、わりと本気だったり」 「え、」 言ったら悪いけど間抜けな表情のレアンの、薄くリップクリームが塗られた唇に小さいキスを1つ落とす。 たった一瞬の出来事だったけど、ほんのりチョコの香りが漂った。 レアンはただでさえ赤かった顔をより赤くして、口を何度もぱくぱくし始めた。ちょっと抜けた表情だけど、可愛い。 そんなレアンを見ながら、私はポッキーを前歯でかじりながら奥へ奥へと押し込んだ。 「何!な、何したの!さっき!」 「キス。何ならもう一回しようか」 「する訳ないじゃないこの馬鹿っ!」 レアンはさっと立ち上がって、さっきまで座っていたクッションを私に投げつけて出ていってしまった。ちゃっかりポッキーを持って。 「あーあ」 でも、本気でレアンは嫌がっていなかった。私から見るとの話だが。 ということは。それは彼女なりのOKサインなのかもしれない。 「ふふっ」 投げつけられたクッションを抱きしめる。 口から、自分でもちょっと気持ち悪いと思う笑い声が漏れた。 明日にでも、真相を聞いてみよう。 そう考えながら、寝るために部屋の電気を消した。 higi様より、1万ヒット記念フリーリクエストにて頂きました! 結構無茶なお願いだと我ながら思いますが、そんなリクエストにもこんな素敵な小説で返してくださったhigi様に心から感謝です。 一万ヒットおめでとうございます!これからもストーカーさせていただきますね! |