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有効期限は私が死ぬまで




※クリスマス記念

季節が変わっても習慣は変わらない。私は、雪の降るこの場所で、いつものように彼女と話をする。

「今日もここにいるのね」

それは、その言葉こそは私が彼女に返すべき言葉でもある筈だ。でも、答えは分かっているから、言わない。代わりに曖昧な笑みを浮かべて、そうねと呟いた。
この鉄塔からは、見滝原市を一望する事が出来る。今日は特別な日だから、いつもよりきらきらと輝く街を、私と彼女、暁美さんはじっと眺めていた。
今日は、キュゥべえはいないみたいだ。まあ、別にいてもいなくてもいいけどね、とそんな事を思いながら、もしかしたら彼(多分、彼)も、この日を誰かと共に過ごしているのかなあ、とそう考えた。ケーキを食べプレゼントを開けるキュゥべえなんてまるで想像できないけれど。

「暁美さんには、そういう人はいないの?」
「どういう人」
「一緒にこの聖夜を過ごす相手よ」
「いないわ」

間を開けずそう答えた割には、彼女の横顔は何かを想っている。いつもの彼女の事なのだろうな、というのは容易に理解できた。暁美さんのリボンが繋ぐ、彼女との絆の物語は、耳にたこが出来るくらいに聞き飽きてしまった。
「うそ。まどかでしょう」その名を口にすると、暁美さんはピクリとする。分かりやすいよ、暁美さん。

「円環の理……だっけ?魔法少女を導く彼女」
「……貴方も、好きね」
「だって、素敵じゃない。大切なまどかを護る為に幾多の世界を巡ってきた暁美さんの話、私、大好きよ」

そのまどかは、総てを救済する為に概念へと変わっていったらしいけれど。それが、それこそが円環の理。まるで夢物語のようだけれど、暁美さんはそれがそれこそが真実だという。

「暁美さんは、まどかとこの夜を過ごしたかった?」
「……そうね」
「あら、素直」
「まどかとは、この季節を過ごせなかったから」

キラリ、と夜景が揺らめいた。この夜の為のイルミネーションが輝きを増して、黒を彩る。「素敵ね」と笑う。「そうね」と同意する。
「ああ、そうだ」私は、持ってきていた小さな箱を取り出した。中身は、美味しいと評判のケーキ屋さんで買ってきた、ショートケーキ。

「暁美さんも食べるでしょう」
「私は」
「食べるわよね?」
「……貴方、本当にしつこいわよね」

フォークとケーキとを受け取り、暁美さんは顔をあげる。一応、キュゥべえの為にクッキーも用意していたんだけど、これはどうやら必要なかったようだ。

「ありがとう」
「どういたしまして」

そうお礼を言ってくれるくらいなら、少しでも、まどかに満ちたその心に私という存在を置いてくれたらいいのになあ、なんて、叶わない願いだ。まあ、隣にいられるだけで、私は十分幸せなのだろうけれど。
概念となったまどかは、私達を見ているのだろうか。私達を、魔法少女を見つめているのだろうか。(ねえ、お願いだから、いつか私が貴方に導かれる日が来るまで、少しでも貴方の大切なヒトを独り占めさせてよ。)くだらない会話を楽しみながら、静かに更ける夜を想う。


素敵なお題は蝶の籠様から!


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