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不死なる姫の子守唄(輝夜)


切っ先は確かに彼女の喉笛を突いた。赤い赤い鮮血が彼女の服を、冷たい地面を汚す。しかしそれで絶命する事もなく、彼女が震える指でこわれた喉を一撫ですれば、まるで先程の攻撃がなかったかのように傷が血液が消え失せた。
「相変わらず……反則的な力ね」恐らく今のは彼女の有する気を和らげる程度の能力で細胞という細胞を活性化させ、無理矢理に自己治癒力を高めたのだろう。全く以て多大な百通りもの解釈で動かせるその力は、か弱き人間(私は彼女の事をそう評しはしないが、彼女自身は己はそうであると言ってはばからないのだ)が持つに値しない力である。ああ、益々この女の正体に興味をそそられてしまう。
「それは貴女も同じでしょう、輝夜」まだ完全に治りきっていないのだろう、少ししわがれた声で彼女はそんな事を言う。

「そりゃそーよ、私は特別な存在だから」
「はいはい」

此処に永琳がいたのなら、客人を傷つけてはいけないと私を諭したのだろうが、しかし生憎とその客人というのは殺しても死なない存在であったし、私もいつまでもここで読書をするのは退屈だったのだから、仕方がないでしょう。最近は妹紅も来てくれないから、遊び相手がいないのよ。恨みたいのなら、こんな時期にこの永遠亭へとやってきた自分を恨みなさい。
「だからって私を殺そうとするのはやめてくれないかなぁ」私の心中を聞いて、同情こそするけれど心底迷惑がっているような表情を浮かべながら彼女は、名前は頭を掻いた。

「弾幕ごっこならいざ知らず、ただの死合など私の美学にも反するのよね」
「ごっこ遊びも殺し合いも5文字しか違わないでしょう?良いじゃない、死なないんだから」
「いや。ね。私だって頭や心臓を潰されたりでもしたら命が潰えてしまうのよ?こんなの、能力ありきなんだから」
「あーあ、それは良い事を聞いた」

反省する気もまるで無し。流石の名前も疲労に顔をゆがませている。まあ、眠りに落ちていた私を『暇だから』なんて理由で叩き起こしたのは彼女自身なのだから、自業自得ともいえる。

「それ、で……仲間思い部下思いの貴女がここまで私に厳しい理由をお聞かせ願えるかしら」
「あら、そんな事ないわよ」
「私は不老でも不死でもないからね」

ぞくりと突き刺さるような視線の割には、微笑すら浮かべられていて、私はそんな扇情的な彼女の表情に欲情してしまいそうだった。
「別にそんな事……思ってないわよ」老いもせず死もせず、正体こそが不明であるそんな名前に私が何を思ったのか。敏い彼女ならとっくのとうに気づいているのだろう。
思い出すのは月の都のいけ好かない奴らの事。不老とは言わぬ。不死でもなく。けれど似たようなちからを持つあいつら。……ああ、でも、でも、それはただの世迷言であったようだ。

「私の想像がまったくの見当違いであるのなら、結局あなたはなんだというの?」
「さあ、ね。そんなものどうだっていいじゃない」

「そんなものより私は輝夜の話が聞きたいわ。永遠と須臾の話よ?」そうやって彼女は煙に巻く。まったく、食えない奴だ。名前は、極上のデザートになりえる存在だろうに(それはきっと、買いかぶりではない)。
まあ、いいか。たとえ彼女が私にとって害なのであっても、なんだかんだで彼女とするお喋りも、弾幕ごっこも中々面白く。娯楽として便利なおもちゃを手放す理由もないだろう。
こんな事を考えていると永琳にバレてしまえば、怒られてしまうだろうか。まあ、それも悪くはない。
今度妹紅と名前と三人でお茶会でも開いてみようか。果たして妹紅が快く招待されるかは分からないけれど、中々素敵じゃない。人外の存在同士仲良くやっていきましょうよ。





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