駄目人間な石丸兄 「全く、兄さんは何をしているんだ!」 覚醒しきれていない脳みそが必死に、恐らく自分に向けられたんだろう言葉を解析しようと頑張ってはいるのだが、起きたばかりの俺の回路じゃあどうにもこうにも上手くいきそうにはなかった。 多分この声は我が愛弟であるだろう。そんな結論に達して、よく考えなくてもそれは当たり前じゃないかと自分にツッコミを入れた。何しろこの根城を知る人間は弟しか存在しえないのだ。 「おはよう」「おそよう、だぞ!馬鹿兄さん!」長い体躯を包めていたシーツをズッと引っ張られ、受け身もとれずにソファから転げ落ちる。冷たい床とキッスしてしまい、初めてだったのになんて愚かしい事を隅っこで考えた。 「きよ君が早いだけだよ」気だるげに体を起こし、己を見下ろす清多夏を見つめる。俺とは違いピシッと制服を着こなした彼は恐らく学校帰りだろう。 「はあ……。大体、学校はどうした、兄さん」 「学校?学校ね、学校……ふんふん」 「……またサボったんだな」 「失礼だな、サボった訳ではないぞ。そうだな、うん、忘れていたんだ」 「そんなだから母さん達に愛想をつかされるんだ」 きよ君がいるからいい、なんて子供じみた事を言ってみせると、全く兄さんはと説教を開始されそうだったので、とりあえず近くにあった枕で耳をふさぐことにした。 世間様で有名な超高校級の風紀委員、石丸清多夏君には、あまり公表されてはいないが兄上がいらっしゃる。まあその兄上は結構なヤンチャ坊主でだらしがなく協調性がなく社交性がなく最悪の部類に入る塵虫だった為、肉親に見放され今は一人住まい。ただそんな芥にも劣る人間は唯一の特技のお蔭でなんとか生活費は稼ぐことが可能なのだ。 だから、心配する必要性なんてこれっぽっちも粉微塵も存在しないというのに、普通なら煙たがられて当然の俺を優等生な弟は何故だか見放そうとしない。きよ君は良い子だなあ。 「聞いているのか、兄さん?」 「え?うん、今日の夕飯はコンビニ弁当かすぐそこのレストランかって話だろ?」 「そんな話ではなかったし、そもそも外食ばかり取っていると体調が崩れてしまうぞ」 「そんじゃきよ君なんか作ってよ、材料ないけど」 冷蔵庫は置いてないし、その日暮らしの為カップ麺なんかもない。面倒だからとご飯抜きなんて最早当たり前で、我ながらだらしのない生活だなと笑うしかない。 そんな俺の食生活を一応ながら知っている清多夏は、大きくため息をついて、仕方ないなと呟いた。 「それじゃあ僕が久々に腕を振るってあげるとしよう。全部召し上がりたまえよ」 「おうおう、じゃ、買い物行くか。すっげー安い店が近くにあるんだよなー」 馴染みのスーパーで馴染みの店員さんがお肉を見比べる俺達を見て「兄弟みたいねえ」と笑うものだから、俺達は顔を見合わせて苦笑する事になった。 ← |