思うが儘に | ナノ





第1ヒント:それはある種の病です。


「韓国に行く…って?」
「ああ」


私の言葉に南雲は簡潔に答えを示した。お隣のキムチが美味しいらしいあの国に、南雲が何の用があるというのだろう。食べ歩きでもするつもりなの?だとしたら私もちょっと気になるなあ。
そんな暢気な考えを浮かべている私とは別に、南雲は心なしかいつもより表情をかたくした。
「あっちのサッカーチームに誘われた」あっちの、というのは勿論、韓国の、ということだろう。どうしてこいつが韓国のサッカーチームに誘われるんだろう。私の疑問を汲み取ったのか、南雲は言葉を繋げた。


「亜風炉って奴、知ってんだろ」
「……ああ、あの、女の子みたいな」
「そいつ韓国人らしくて」
「それで、誘われたの」


涼野も一緒にな、との言葉に、へえ、と相槌を打った。亜風炉って韓国人なんだ。正直こいつが韓国に行くということよりも、そっちの方が驚いた。そんな私は薄情なのだろうか。
今の時期に誘われるということは、きっと恐らく、そのサッカーチームというのは、FFIの出場チームなのだろう。確かあれって国籍とか制限なかったし、年齢も南雲と涼野はクリアしている。FFIに関してはお日さま園内でも結構話題に上がっているし、だから、情報に疎い私もそれくらいは知っていた。
いってらっしゃい。特に深く考えずに、私はそう告げる。すると、目の前の男はあからさまにムッとしてみせた。私の反応はそこまでこいつの機嫌を損ねるようなものではなかった筈だけれど。


「それだけかよ」
「何、激励の言葉もほしいの?」


「必要ないでしょ、あんたには。強いんだし」そう、南雲は強い。かのエイリア時代ではこいつはマスターランクのキャプテンをやっていたくらいなのだ。こいつと同じくらいサッカーを続けてきた私はしかし、ファーストランクのベンチウォーマー。それくらい、類い稀なる才能を持った奴だったくらいなのだから。
まあ、そんな南雲も基山には劣っていたが。
どこからか八神の声が聞こえてきて、私はドアの方に視線を向けた。


「お前は、俺がいなくなってもいいのかよ」
「別に。どうせ帰ってくるんだし」
「…そうかよ」


八神の声が近くなる。どうやら私のことを探しているようで、私は南雲のほうへと視線をやらずに、そのまま部屋を出ようと立ち上がる。
「それじゃ」「待てよ」挙げた手首をがしりと掴まれ、私は停止せざるを得ない状況へと追いやられてしまった。行き成りなんだこのチューリップは。毟るぞ。


「俺は、俺はなあ」
「なに。言いたいことがあるならさっさと、」
「……俺は」


ガシャリ。「名字はいないか」
いつの間にやらここまでやってきていたらしい八神がドアを開き私と視線を交える。神がかったタイミングだ。八神は私と南雲を見とめ、あ、と声を漏らした。そうして申し訳なさそうに「邪魔…だったか?」と首を傾げる。
邪魔なんかじゃないわよ、と取り繕って、私は南雲の手を乱暴に離した。突然の来訪者に驚いたらしい南雲の力は弱く、拘束は呆気なくとかれる。ニコリと微笑み八神に駆け寄って、彼女の肩を掴んで強引に部屋から出る。
ドアを閉める時にちらりと見えた南雲の間抜けな表情ったら。涼野に見せたら一生それでからかわれそうなくらい哀れなものだったのよ。


分かりますか?分からなくても良いですよ、まだヒントはありますから。




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