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「へえ、カノンって料理得意なんだ?」
「そんな、得意というほどの腕でもないんですけどね…」


ミッションを滞りなく終わらせた俺とカノンは、迎えが来るまでのんびりと過ごしていた。
今日の配給品の話から、話題は彼女の料理に変わり、俺は今しがた聞いた言葉に相槌を打つ。
俺の言葉に、彼女は謙遜するように無難な笑顔を見せるが、そうは言っても、卵さえ割れない俺よりはよっぽど良いような気もする。
お菓子の事について話す彼女は心なしかいつもより輝いてみえて、本当に好きなんだなあと心がほんわかとした。
俺としてはクッキーなりケーキなりのお菓子類は嗜好品配給チケットで手に入れられるという認識でしかないので、お菓子作りが出来る彼女を少し羨ましく感じた。
甘党ではないが、嫌いではないし。いつでも食べられるというのは良い事なんだろうなあ。うん。


「そういえば、ジーナがこの前美味しいプリン食べたとか言ってたけど、もしかしてそれカノンが作った奴なのか?」
「プリンですか?」
「ボルケーノプリンとかいう凄く不思議な名前だった気がするんだが」
「あっ、はい、そうです。私が作りました」
「へえー。あのジーナが絶賛してたから、やっぱ腕はあるんだねえ」
「そんな…」


照れたように笑うカノンに少しだけきゅんとくる。
あのジーナが思い出し笑いするくらいだから、よっぽどなんだろう。


「食べてみたいな」


気がつけば俺はそんな事を口走っていた。
俺の言葉に、カノンが小さく首を傾げる。
「作ってきましょうか?」そんな事を彼女が言うもんだから、俺はいやいやと首を横に振った。


「いいよ別に。今のは忘れてくれ」
「え、でも、今…」
「いや…うん、大丈夫。カノンだって暇じゃないっしょ」
「良いですよ。私お菓子作るの大好きですから!何が良いですか?」
「う、うーん…じゃあ、簡単な奴を頼みます」
「ふふふ、了解しました」


にこにこと微笑みながら、カノンが神機を抱える。迎えのヘリが遠くに見えたからだ。
俺も神機を抱えて立ち上がった。ずっと座りこんでいたからか、腰が痛い。
カノンのお菓子か…。そんな事を思いながら、へリを眺める。


「まあ、うん、楽しみにしてるよ」
「はい!」


翌日。
エントランスのソファに座りぼーっとしていた俺に、カノンが声をかけてきた。


「ナギさんっ!」
「ん?」
「この前言ってたお菓子、作ってきました!」
「おおっ!」
「お菓子、ですか?」


一緒に座っていたアリサが、マグカップを置いて不思議そうにカノンの方を見やる。
はい、と頷いたカノンは、俺の隣に腰をおろして持っていた包みをテーブルに置いた。
「ブラストクッキーって言うんですよ」そう言いながら包みを開けると、美味しそうなクッキーが顔を出した。
良い香りが鼻腔を掠める。本当に腕が良いらしい。


「へえー、美味しそう」
「ふふふ、どうぞ」
「…やりますね、貴女…。こんな所で点数稼ぎですか」
「何を言っているんですか、アリサさん?」


なにやら妙な笑顔を浮かべている二人に首を傾げつつも、手を伸ばしてクッキーを齧る。


「おおっ、美味しい」
「そうですか、お口にあうようで良かったです!」
「うんうん。これはいいなー、俺もこんなに作れるようになりたいよ」
「別に作れるようにならなくたって、私が…」
「こ、これ私も頂いていいですか?」


カノンの言葉を遮って、アリサがテーブルに手を伸ばし、クッキーを取った。
いやー、本当美味しいな。口あたりもいいし、これなら、何個でもいけそうだ。


「ううー…」
「ふふふ…」



…それにしても、カノンとアリサがすごいにらみ合っているんだけれど、もしかして仲が悪いのだろうか。
そんな事を思いながら、もうひとつ頂く為に手を伸ばした。


焼きたてクッキーと
(水面下の争いに、気づくのはいつの日だろうか)

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