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可愛い可愛い女の子は、俺の挙動に興味津々なご様子で、彼女が俺を見ているという事実に、ほんのすこしだけ、優越感を感じた。


「なまえ、それ、うまいのかー?」
「うーん、どうだろうね」


とろとろの目玉焼きを、彼女は首を傾げて眺めている。久々に卵が配給で手に入ったので、作ってみたのだ。
俺が唯一上手にできるのはこの目玉焼きで、我ながらこの料理だけはカノンにも負けないと胸を張って言える。
まあ、目玉焼きが料理と言えるかどうかは、わからないが。
現在、サカキ博士の研究室にあるシオの部屋は彼女が暴れたためぼろぼろで、その修復の間、博士の研究室から一番近い距離にある俺の部屋に住まうことになっているのだ。
ソーマになんとも言えぬ目で見られたけれど、博士の決定したことだし、こればっかりは譲れない。
騎士鎧だの魔女冠片だのと言ったアラガミ素材を食すシオとは違い、俺はこういうものしか食べられない。
シオがこの部屋に住まう以上、安易に外出は出来ないので、食堂に行くのは些か憚れる。
だから久々に、こうして台所を使っている。


「シオ、みたことないぞー」
「うーん、まあ、確かに珍しいからねえ」
「きらきらしてるなー」


シオは、表面の光沢を面白そうに眺めている。
「ちょっと失礼」そう言って、目玉焼きをフライパンから皿に移した。どろり、とまだ焼けきれていない黄身がこぼれてしまう。
ステンレスにぽたぽたとこぼれた黄身を、シオはじいっと眺め、指で掬いあげた。
そのまま口に含む彼女を眺めつつ、テーブルに食器を並べる。


「む」
「ん?」
「まずいぞ」
「そっか」


そりゃあ卵はアラガミではないのだし、考えなくても当たり前なのだが。
口直しというように、テーブルの上に置いてある獣神大牙をひょいと手に取って食べ始めた。いつ見ても不思議な気持ちになる光景だ。


「それにしても…シオ、お腹すいてるの?」
「んー?」
「偏食傾向がどうたらって聞いたけど。その黄色いのってアラガミじゃないし。…まあいいや」


自分より下等な生物は食べないって聞いていたから、今の行動には少なからず驚いた。
それでも、俺の言葉が彼女にちゃんと通じるか分からないし、考えることも苦手なため、あっけなくそれを放棄する。
けど、シオは俺の言葉がちゃんと理解できているようだった。


「おつきさまみたいだったよ?」
「お月様」
「まーるくて、きらきらしてて、おいしいのかなーって」
「そっか」


言われてみればそんな気もしなくはない。コーヒーを淹れながら、同意するように頷いた。
お月様が美味しいだなんて聞いたことがないけれど、シオが言うんなら、きっとそうなんだろう。


「ねえ、シオ」
「んー?」
「後でデートにいこっか」
「うんうん!シオ、デートいく!おなかすいたー!」
「俺の素材食べちらかしといてよく言うよ…後でソーマに連絡取っとくね」
「おー!」


心の底から彼女が嬉しそうに笑う。
正直、不安でたまらない。最近アナグラ内は色々と騒々しいし、支部長もなにやら変なことを考えているし、サカキ博士はうさんくさいし。
シオだって、時々、ふっと消えてしまいそうに見える。
だからこそ、こんな風に恩を着せて、彼女をつなぎとめておきたいと考える俺は、卑怯な奴だと思う。
でも、どんな風に言われても俺は彼女を守りたいし、手元に置いておきたいし、離れるつもりなんて毛頭ない。


月を食らう


こんな彼女も、一応人類の敵であるアラガミな訳で。ゴッドイーターの俺がこんな感情を抱くなんて、おかしいのかもしれないが、自分の気持ちに嘘をつくのは苦手だから、俺はこのままこの感情を継続していきたいと思う。
目玉焼きに齧りつくと、何がおかしいのか、シオが声をあげて笑った。

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