稲妻11 | ナノ




※クリスマス記念

ぎゅっと抱きしめられる。あたたかい。熱がじんわりと肌を通して伝わってくる。こんなに寒い外から入ってきたのに、どうして彼女はこんなにあたたかいのだろう。
「ただいま、なまえ」「おかえりなさい、玲名さん」文面だけ見るとまるで夫婦の会話にも見えるけれど、勿論私と彼女、玲名さんは結婚していないし、男女でもない。女と女の秘めたる想いを隠そうともせずに満喫していただけだった。
彼女はいつも私より帰りが遅くなる。というのも、彼女はサッカー部に所属していて、帰宅部である私より学校にいる時間が長いからだった。だから、彼女の分の夕食も私が作る。ついでに言えば朝食も、お昼のお弁当も私が作る。別に嫌だとは思わないし(居候させてもらっている身からすればそれは当たり前の事だと思う)、寧ろ、玲名さんもいつも残さず食べてくれるから、もっともっと作ってあげたいと思う。

「今日の御夕飯はカレーです」
「へえ、美味しそうだ」

手洗いを終え食器を用意し、慣れた手つきで家事をこなし、二人暮らしには少し広いリビングのテーブルに二人座る。いただきます、とあわさる声に少しだけおかしくなった。

「そういえば、玲名さんのサッカー部、最近有名になってきましたね」
「それは良かった」
「玲名さんもきゃーきゃー言われてますよ、クラスの女の子達に」

男の子に負けず劣らずの技量を見せ、爽やかに笑う玲名さんに、魅了された女子は多い。
「嫉妬してる?」「当たり前でしょ、もう」ため息をつくと、彼女は苦笑いを浮かべた。

「なまえは嫉妬深いからな」
「……それは貴女にも言える事ですけどね」

今まで何度、私の靴箱に入っていたラブレターを勝手に取られ破られ、授業の一環で男子とペアを組もうとして邪魔され威嚇され、エトセトラエトセトラ、そんな事をされてきたのか分からない。嫉妬深いのは私より彼女の方だ。再び、ため息をつく。
「仕方ないじゃないか」全く悪びれずに玲名さんは言う。

「なまえに言い寄る男は皆ライバルだからな」
「自意識過剰……というより、私の事誤解しすぎなんですよ。そんなにモテませんから、私」
「万が一があったら困るだろう?」
「万が一があると思っているのは、私を信用してくれていないという事なのですね」
「そういう訳じゃないけど」

サラダのプチトマトを口の中で潰す。すっぱい。

「お互い難儀ですね」
「まったくだ」
「ええ、でも好きですよ」
「分かっているよ」

何をされても怒る気になれないのは、彼女が本当に心底私の事を愛してくれていて、私の為だから、と行動しているからだった。もう少し周りを見てくれてもいいんじゃないか、と思うけど、それが玲名さんの愛の形なのだから、このままでいいとも思える。周りからしたら、たまったもんじゃないんだろうけど。
「そうだ」玲名さんが声をあげる。

「もうすぐでクリスマスだろう」
「そうですねえ」

街のイルミネーションが綺麗だから、私もクリスマスは好きだ。

「イブに何処かに行こうじゃないか」
「へえ、何処に?」
「何処でもいい、なまえの行きたい所に」
「そうね、じゃあ、いつもみたいにデートしましょう」

噴水で待ち合わせ(本当はする必要がないけれど、デートといえば待ち合わせだから)、映画を見たりショッピングをしたりして、カフェで語り合い、最後に、どちらからかキスをする。そんな、いつも通りのデートをしたい。玲名さんは快く頷いて、くすりと笑った。
「いつも通りだな、ほんとに」「クリスマス、じゃあないですね」でも私達にとっては、クリスマスもイブもいつもと変わらない一日でしかない。私達の間には、クリスマスにしかできない事なんてないのだから。

「でも折角のクリスマスだし、キスから先の事もしてみようか」
「いけないな、私達まだ中学生なのに」
「なまえは初心だな」

まず玲名さんがふっと微笑んで、つられて私も頬を緩めた。
大変な事も多いけど、同じ分だけ幸せな事もある。玲名さんって結構我儘だし、嫉妬深いけど、優しくて、凛々しくて、何より私を大切にしてくれる。
この幸せが続くように。私が毎日彼女の分の食事を作り、彼女を起こして、おはようと笑いあえるようなそんな日が続くように。そんなわけでとりあえずはクリスマスというイベントをこなしたら、もっともっと彼女に近づける気がするの。


素敵なお題は蝶の籠様から!







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