稲妻11 | ナノ




※気持ち悪い表現があるので注意

「私は、守られる女ではなく、守る女になりたいの。すべてを根こそぎ、守る事が出来るような、そんな女になりたいの」


そう言って微笑むなまえは、私の憧れだった。
私より背が高く、私より声が低く、私より冷たい目を持った彼女は、私の理想像だった。


「女だからって、男に守られるのは嫌でしょう?」
「そういうものなの?」
「そういうものなの、かな。少なくとも私はね」


お日さま園で一番歳が上だった彼女とは、よく遊びよく話した。何しろ彼女が来るまでのお日さま園の女というのは瞳子姉さんのみだったので、新鮮だったのだろう。なまえには皆興味を示したし、慕ったし、中には恋心を抱くような奴もいた。なまえの話す夢物語はとても心地が良くて、私はそんななまえの傍にいる内にいつしか、彼女と同じものを目指すようになっていた。
優しく、強く、そして、凛々しく。いつも男の子と混じってサッカーだったり野球だったりを遊んでいた彼女は、きらきら輝いてみえて、それは、当時の私に正しく革命を起こしたのだ。


「私も、なまえお姉ちゃんみたいになりたい!」


そんな事を言っては、なまえを困らせたりもした。
そしてその度に彼女は、私の頭を優しく撫でながら、「玲名ちゃんはお姫様になった方が可愛いよ」なんて言ったっけ。お姫様、お姫様。そう、私はお姫様になりたいはずだった。けれど彼女に出会ってから、そんな気持ちはふっと消えてしまったのだ。


ああ、そうだ。
そうして私は、彼女を理想とし理由とし彼女の隣に立てるような、……いや、彼女の前に立てるような、そんな人間になりたいと奮起し、頑張った。ウルビダという名を与えられてからは特に。やがて、私はエイリア学園のマスターランク、ガイアの副将という位置につく事が出来て、ようやく、…………ようやく。





「私は貴女のような強く美しい女になる事が出来た」
「……」
「自分で言うのもなんだが、私は随分と努力した。少しくらい、褒めてくれてもいいんじゃないか?」
「……ここから、出してくれたらね」


ぎらぎらとした瞳で睨まれると、体がぞくりと疼く。知らなかった、私はサディストだったのか。…いや、それも、きっと相手が尊敬してやまないなまえだからなのだろう。
しかし、その言葉はいただけない。ここに閉じ込めて3週間くらいになるが、いつもいつもそればかりで、いい加減、諦めてくれないものかと思う。その反抗的な態度も、目も、声も、嫌いではないけれど、どうせなら愛の言葉を囁いてくれる方がよっぽど有意義な時間を過ごせるのだろうに。
「……何が不満なんだ?」全く、分からない。この部屋には彼女の好きな本もゲームも揃っている。食事だって三食あげているし、この部屋は快適そのものだ。目の前の彼女が怒る理由が分からない。


「何が…?」
「ああ」
「決まっているじゃない、私の自由を奪う事が不満なのよ」
「手錠と足枷は、一日目に外したじゃないか」
「…そういう事じゃない!私は、外に出せって言ってるのよ!こんな所に閉じ込めないでっ!」


もう何日も食事をとっていないせいで体力も気力もない筈なのに、目だけはやたらと恐くさせて、なまえはそう叫んだ。
…ああ、勿論、食事は与えている。けれど、彼女はそれを口にしようとしないのだ。…一体、何が悪かったのだろう。そんなに、私の血液を混ぜたシチューは不味かったのだろうか。それまでは気にせず食べていたのに、あれを出した日から彼女は食事をとるという事をしなくなった。


「外に、出る…?どうしてそんな必要があるんだ?」
「必要、ですって…!?」
「なまえの望むものなら何でも此処に持ってくる私という存在があるのに、外に出る必要はないだろう?」
「……これは、監禁よ?立派な犯罪なの」
「そんな事を言われても。仕方ないじゃないか」


大事な物を守る為に、私は強くなったのだ。


「貴女をこうして閉じ込めないと、守る事が出来なくなる」
「…ま、守る……?」
「私は、貴女を守る為に、強くなった」


『私は、貴女の事も守りたいよ。ねえ、玲名』
幼き日に聞いたあの言葉は、私の心に根付いている。
「私は、貴女に守られる私ではなく、貴女を守る私になりたかった」その為に、ああ、その為に私は、こうして立っている。


「なまえ。愛している。だから、守ってあげる」
「……玲名」
「貴女を傷つけるすべての存在から。貴女を苦しめるすべての存在から。だから、ねえ、大人しくこの籠の中で私に守られていて」


グランはこんな私を狂っていると憤るだろうか。キーブはこんな私を異端だと蔑むだろうか。けれど、それでも構わない。私はこの部屋の番人なのだ。彼女を守る王子様なのだ。


「貴女に会ったあの日から、私は貴女の王子様になる為に生きてきたんだ」


誰にだって、この籠の中には入れさせない。愛する彼女に触れさせない。
大切なお姫様は大事にしなくちゃ意味がない。だから私はこの扉に鍵をかける。重たく分厚く、冷たい扉に、固く揺るがず堅牢なる鍵を。














好き。大好き。愛している。もっと、もっと私に想いを馳せて。憎しみでも構わない。私を見て。私を。







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