「風丸くんはさあ、」 「ん?」 「女の子だよね」 さらりと、ごくごく自然に当たり前のように性別を偽られ、口に含んでいた米粒を吹き出しかける。危ない、なまえが折角俺だけに作ってくれたお弁当が悲惨な目にあうところだった。…ではなく。 「俺は男だ。」 「わかってるよ。」 独り言のように呟いて、はあ、とため息をつかれる。ため息つきたいのは俺の方だ、と心の底で言った。俺の前の席であるみょうじなまえ。彼女とは一応は恋人同士である筈なのだけれど、どうにも彼女の考えていることは判りにくい。突拍子もないことを言い出しては俺をひじょうに困らせる彼女だが(時々業となんじゃないかと思う)、しかし嫌いにはなれない。だから女の子だ、と言われた今日も、腹は立たなかった。「理由は?」(俺としては悲しいことだが)わかりきったような質問をぶつけると、頬杖をしたまま口をひらく。 「髪長くてー、女々しくてー、優柔不断だから?」 「なんで疑問形…」 髪が長いのは間違ってはいない。だが、女々しくて優柔不断っていうのは納得がいかなかった。そんな俺の心境に気づいたのか気づかないのか、なまえは続けた。 「カエルの解剖のとき、目逸らしてた。」 「…あれは仕方ないだろう」 理科の実験のときの事を言われ、顔をしかめる。ああいうのは中学生としては普通の反応で、逆に無表情でハサミを突き刺そうとしたなまえのほうが異様なものであった。それに、と更に続ける。 「一年の子に告白されて困ってた」 「見てたのか?」 「聞いた、…その子、部活の後輩だから。」 確かに昨日、告白されてすぐには断れなかった。その女子が泣きそうな顔をしていたから、良心が痛んだのだ。 と、そこで、先程から彼女が俺に目を合わせない理由がわかった。「嫉妬してたんだろ」、俺の言葉になまえは酷く動揺し、持っていた購買のパンを落としかけた。 「なに言ってるのかわからない」 「なまえもやっぱり女の子なんだな」 「うるさい。」 にやにや。笑いながら見つめていると、彼女は椅子を前に戻して俺に背中を向けた。さらさらの髪からかいま見える耳が、赤くなっている。背中を向けたまま彼女は「風丸くんはずるいよね」と呟くように言う。 「いつもは女の子なのに、突然男の子みたいになるんだもん」 「みたい、じゃなくて男だからな。」 お弁当ご馳走様、と言うと、どういたしまして、とかえってきた。 お ん な の こ ! |