稲妻11 | ナノ






私がそこに訪れたのは偶然ではなかったし、彼と彼女が二人で語らっていたのは偶然ではなかったから、その日の出来事を集約したとして、あれら全てを無かった事にはできない。私という一個人がそこまでの大それた手段を持ち合わせるはずもなく、そうして私は、彼女の思いを否定するなんていう、今までの行動全てを亡き物にせざるをえない程の代償を払わねばならぬほどの選択肢を選ぶはずもなかった。
だから、雷門さんがキャプテンに愛の告白をしたあの日あの時、私は物影で震える手を抑えるという所作さえも行うことができなかった。


「誰がどう見たって、あれは告白だった」


罪の懺悔でも軽い戯れでもなんでもなく、あれは、一人の人間が一人の人間を愛するが故の、言葉であった。
雷門夏未は、円堂守の事を好いていて、そうして、愛している。
過去形ではなく、現在進行形のその事実は、どうしたって私の感情を麻痺せざるをえない、さながら毒薬にも似た感覚を心臓に与える。真夏だというのにその時ばかりは心の底がすうっとうすら寒くなった。そうだ、まるで、誰にも話したことのない秘密を露呈してしまった時のような、全身の力が抜ける、なんて。
私は雷門さんのソレを、ソレだけを聞いた瞬間、誰かに体を乗っ取られたかのような、自然で、なめらかで、だからこそ違和感だけが残りうる所作でその場から去った。いや、逃げた。それが、あの時の私にぴったりな説明だった。
私がいてはならない状況に遭遇してしまったことへの危機感、というのもあった。けれど一番は、彼女が、雷門さんが、誰かを愛している、ということへの驚きが、実に80%を超えていたこと、つまり8割は、純粋な驚きによって……私は踵を返し、引き攣る頬を抑え、その場に崩れ落ちるような行動を、起こしてしまっていたのだ。
雷門さんはうぶで、純粋で、なにより、自分に厳しい人間であった。だからこそ、私は、彼女の事を実は何にも知らない癖して、彼女は大丈夫、彼女は、彼女は愛を知らない、などと高をくくっていた訳で。事実彼女はうぶで純粋で自分に厳しい人間であったが、ただひとつ、彼女が愛をしらないという一番重要なそれだけは、私の予想を遥か上回る形で真実を見せてくれることとなった。


「なまえさん」


彼女はあんな事があった後も、変わらず、私に話しかけて来る。それは当たり前のことだった。だって、雷門さんはあの現場に私がいただなんてそんな事、これっぽっちも考えていないのだ。そうして、あの告白にたいして、雷門さんは全く私に罪悪感など抱いていないのだ。当たり前だった。彼女は、私がキャプテンを好きではないという事実に、気づいていたのだから。だから、だから。
「おはよう」
今日は、大切な日だった。全てが決まる、大切な日だった。私達のキャプテンと、選手達が、世界を手に入れる日だった。だから、私は、笑わねばならなかった。
マネージャーは、選手を煩わせてはいけない。サポートする為に来た私が変に暗くなることでチーム全体の空気を壊すなんて、絶対にしてはいけない事なのだ。だから私は、笑わねばならなかった。


「がんばりましょう、ね」
「はい」


たったの一言で、相手と気持ちを通じ合える間柄だと、思っていた。私は、他の誰より、彼女を分かっていると、思っていた。だかそれはあくまで自惚れでしかなく、私の妄言でしかなく、

結果なんて、火を見るより明らかだろう。

雷門さんは前とかわらず私に(みんなに)笑いかける。ねえ、私はどうとらえたらいいの?望みはあるの?希望はあるの?キャプテンから返事は来たの?雷門さんは私をどう思うの?
わたしはまだあなたをすきでいていいの?



バレット














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