稲妻11 | ナノ






同性愛者というものはそれだけで批判されるのだから世の中というものは中々に厳しいと思う。男が男を好きで、そして、女が女を好きで、はたして何が悪いのだろうか。確かに本来の愛の定義からは酷く倒錯したものだし、男性は子宮を持たず女性は種を持たないから子孫繁栄が頭の中にインプットされた人間という生命体から逸脱した感情であるということは重々承知なのだ。ああ、私だって分かっている。自分を客観視してみると、みょうじなまえという存在は気色の悪い異端児として見られても全くおかしくない。だって、そうだろう。己の度し難い感情なんかの為だけに自分のDNAを分けた大切な子孫を残さない生き物なんてそれは、最早生き物とすら言えないのだ。ただ、そうなのに、その筈なのに、私は久遠冬花という一人の少女にどうしようもないくらい性愛を感じてしまっているのだ。自分がおかしい事なて分かっている、けれど、それすらを乗り越えてしまえる程私は彼女を一人の女性として愛していた。愛して、しまっていた。私は彼女の為ならそれこそ炎の中に飛び込む事も出来た。倒錯した愛の中で更に倒錯した愛情を感じ一人悦に浸っていた。


「ごめんなさい」


それこそ昔は、この気持ちが伝わるのならなんだってしてみせると思った。どんな罪科に苛まれても私が生きている限りその想いは貫くつもりだったし、どんな侮蔑を味わっても彼女が存在する限りその想いは持ち続けるつもりだった。初めて抱いたその想いは多少持て余してはいたけれど、それでも、私はその想いを否定なんかするつもりはなかった。そう、だったのに。顔をくしゃくしゃにして私に縋りつく冬花は私が今まで見てきたどんな冬花とも違って見えた。「ごめんなさい」何度も言われても私にはどう反応したら良いのか分からなくて、取りあえずは彼女の細い肩を抱きしめてみて、そうして、また号泣される。不器用でごめんなさい、泣かせたくなんてなかった。でも、それじゃあ、私はどうしたらいい?私たち以外はこの部屋には誰もいないというのに、そんな疑問を誰かに解いて欲しくて仕方がなかった。ベッドのスプリングがぎしぎしと悲鳴を上げる。冬花の泣き声とあわさってそれはとても悲しい言葉に聞こえた。


「私も、なまえちゃんの事は好き」
「……冬花」
「でも、私ってどうしようもなく弱いの。駄目なの、女の子を好きになるなんて……そんな、」


浅くない付き合いだから彼女の事はそれこそ何でも知っていた。だから勿論私は、彼女がこういう性格だという事も充分知っている筈だった。世間の評価に敏感な年頃だから仕方なくて、でも私はそんな冬花もとても可愛いと思えていた。だからこそ私はある事を見落としていたのだ。私はある意味で図太いから、同性愛を持つ事に特に葛藤はしなかった。そりゃあ最初は違和感が拭えなくて悩んだりもしたけれど、それでも普通の人(というのはあまり私も分からないのだが)よりはあっさり自分の気持ちに区切りをつける事が出来たと思う。でも、それは、あくまで私がそういう性格の女だからだ。冬花が私と同じように直ぐ自分の気持ちに納得できるなんて思わない方が良かったのだ。特に彼女は人一倍そういう事に悩むタイプだから。私は馬鹿だった。彼女に自分の気持ちを伝えそして彼女に私を好きになってもらうことに精一杯で、彼女の葛藤なんて全く考えていなかったのだから。

泣きじゃくる愛しい人。彼女はどこまでも優しかった。いっぱいいっぱいな思考の中、それでも、私の事を第一に考えてくれて、傷つけまいと丁寧に言葉を紡いでいく。ああ、それなのに、そんな彼女の事が好きな私としたら、なんだ。どうして私は彼女にかける言葉すら見つからない。どうして私は、こんなに愚かな事をしてしまったのだろう。どれだけ後悔しても彼女の心に植え付けた傷に比べたら全然足りない。


「なまえちゃん、好きなの、愛してるの。でも、…でも」
「……ううん、いいの冬花。私こそごめんなさい。押しつけたりなんかして」


「これからも、良い友達でいましょう」優しく呟いて、私は震える彼女から腕を離す。そう、良い友達。私たちはこれまでただの親友だったのだ、多少トラブルはあったけれど、これからは、また上手くやっていける。「ありがとう、冬花」最後にそんな言葉を囁いて、そっと微笑んだ。私はこの想いに蓋をする。だから、もう、私なんかのせいで苦しむ事はやめてください。私は貴女の事を愛していたけれど、貴女が傷つく所を見たかった訳ではないのだから。ハンカチで冬花の涙を拭う。好きになってくれて、ありがとう。好きであってくれて、ありがとう。でも、その感情はもう二人で一緒に仕舞い込んでおこうね。ああ、ごめんなさい。冬花、愛していたわ。好きだったの。どんな罪科に苛まれても私が生きている限りその想いは貫くつもりだったし、どんな侮蔑を味わっても彼女が存在する限りその想いは持ち続けるつもりだった。初めて抱いたその想いは多少持て余してはいたけれど、それでも、私はその想いを否定なんかするつもりはなかった。けれどそれは無理な事だった。最初から分かっていれば、冬花も、私も、傷つくことはなかったというのに。





この部屋を出たら、私と彼女はまた『親友』に戻る。この部屋での出来事は深い記憶の底に鍵をかけて封じ込めておくから、そうしたら、私はまた貴女に微笑む事が出来ると思う。


「ごめんなさい、なまえちゃん。ありがとう」


だからそんな事言わないでください。少しだけ、後悔してしまいそうだから。






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