稲妻11 | ナノ






いつも彼女とは視線があうから、なんとなく興味はあったの。
それで、なんとなく、声をかけた。

「凍地さんは、宿題終わった?」
「ええ」

所詮は他人、ということで、反応もそっけない。
凍地さんは進んでクラスメートと接触しようとはしない。
何かを避けているような、そんな感じ。
転校生の彼女はそりゃあ友達は作りづらいだろう。
だけれど、声をかけたクラスメートは悉くそっけない反応を返されてしまって、私も、今この瞬間、そのなかの一人となった。

一人でいるのはどういう心地なんだろう。
私の周りには友達がいる。
何でも話せる子ではないけれど、それでも、当たり障りのない会話はこなすくらいに、仲は良い。
それを踏まえて。私には一人なんて耐えられない。
だから、凍地さんだって好きこのんで一人でいるわけではないと思った。
ただの決めつけだけれど、それは当たっているような気がした。
勘は、結構鋭いほうだ。

「一緒にご飯食べましょう」

お昼時、凍地さんはお弁当を持って教室を出て行く。
それを見計らい、私は彼女に話しかけた。
友達らには事情は伝えてあるし、私の方には不備はない。
凍地さんは私をちらりと見て、「なんで?」と言った。
鈴の音のようなきれいな声だ。

「特に理由はないけど」
「じゃあ、私に構わないで」

凍地さんはそう冷たく言い放ち、すたすたと廊下を歩いていく。
私は一呼吸置いて、彼女を追いかけた。

「どうしてついてくるのよ!」
「一緒にご飯が食べたいからよ」
「意味わかんない」
「凍地さんと仲良くしたいもの」

凍地さんはぴたりと足を止めた。
窓の外から涼しげな風がやってくる。凍地さんの髪が靡き、一瞬、表情が見えなくなった。

「仲良く?」
「友達になりたいと思ってる」
「…こんな面白みもない奴を?」
「私はそんな風には思わない」

そう、と凍地さんは考えるような素振りをみせ、「屋上」そういった。

「私いつも屋上で食べているの」
「そっか」

また歩き始める凍地さんについていく。今度は怒られなかった。




私達は友達になった。
そう思っているのは私だけかもしれないけれど、それでも、仲良くするようにはなった。
だんだん態度も柔らかくなって、皆の前で笑顔を見せるようにもなった。
凍地さんに話しかけても、つんけんした態度をとらないようになった。

帰路につく私達。凍地さんが曲がり角でさよならと言い、私もさよならと答える。

「あ、待って」

踵をかえそうとした私を、凍地さんが呼びとめた。振り向いて、何?と首を傾げる。

「みょうじさんは、」
「うん」
「もし私が、宇宙人だったらどうする?」

突拍子もない言葉に、私は瞬きをした。

「宇宙人?」

私の頭の中に、両手を繋がれている灰色の怪人が浮かぶ。このご時世に宇宙人。
それでも、私にはその言葉が、なんだか真剣なもののように思えて。
もし凍地さんが宇宙人だったら。

「わかんない」
「……そっか」
「でも、拒絶はしないと思う」
「…本当?」
「うん、だって、凍地さんは凍地さんだもの」

その言葉に、凍地さんは嬉しくなったのか、にこりと微笑んだ。
じゃあまた明日ね!私の言葉に、凍地さんは頷いて、

「さようなら」

そう、言った。


翌日だった。エイリア学園という言葉がトップニュースに現れる。
宇宙人と名乗る集団が、各地の学校を破壊している、そんな、現実味のないニュース。
なんとなく昨日の事を思い出しながら、凍地さんとの待ち合わせ場所につく。
私達はいつも待ち合わせをして、学校に一緒に向かっているから。
それでも、いつもは私より早くいる筈の凍地さんは、そこにはいなかった。
体調を崩してしまったのだろうか、不安に思う私の傍で、どん、と何か音がした。

「凍地、さん?」

煙のようなものが巻き散らかされ、私はげほげほと咳をして、そこで、気づいた。
煙の先に誰かがいることに。
私は真っ先に、待ち合わせをしている彼女の名前を呼ぶ。けれど、

「はじめまして、みょうじなまえさん」

そこにいたのは凍地さん。けれど、いつもの制服姿ではなく、奇妙な服を身に纏っている。
それに、なぜ、はじめましてなんだろう。

「どうしたの凍地さん」
「私は凍地じゃなくて、アイシーって言うの」
「アイシー?」

訳の分からない事態に混乱する。
アイシーって、何?

「私は遠き星エイリアからやってきた、宇宙人」

宇宙人。宇宙人って、あの。
エイリアだなんてそんな、まさか。朝聞いたニュースが頭を掠める。
じゃあ、本当に、凍地さんは、宇宙人なの?
アイシーだなんて言っているけれど、私は彼女が、凍地さんにしか見えない。
だって、どうして、泣いているの?

「貴女を、攫いに来たの」

ふわりと爽やかな香りが私の鼻腔をついた。
凍地さんに、アイシーさんに、抱きしめられている。
私はなぜか薄れていく意識の中で、凍地さんが泣きながら微笑んでいるのを見た気がした。




元々、みょうじなまえを拉致してくるように頼まれたのは、クララだった。
だけれど、彼女が持っていたみょうじなまえの写真を見て、興味を動かされた私は、クララに役目を交代するよう頼み込んだ。
最初は渋っていたクララも、お父様の進言もあり、あっさりと写真を手放した。
どうしてこんな子に惹かれたのかはわからない。
お父様は彼女は良い素材だからと言っていたが、私にはサッカーが出来るようには見えない。
それとも、お父様の言葉はただの建前で、本当は何か考えがあるのだろうか。
わからないけれど、それでも良かった。私は、クラスメートとして彼女に接触していくよう命じられた。最初から拉致すれば良いのにと思ったけれど、私は命じられた通りにすることにした。

転入してきて早々、私は失態をやらかした。
話しかけてきた男子がなんとなくいやらしい笑みをしていて、反射的に罵ってしまった。
こんなことをする私に近づこうなんてする人はいない。みょうじなまえに接触する事がほぼ不可能に思えて、私は少し焦った。
それでも、そんな私に話しかけてきたのが、よりにもよってターゲットである彼女だった。
よっぽどの馬鹿であるのかと私は疑問に思い、少し突き放した態度で接してみる。
思えば何故こんなことをしてしまったのだろう、一歩間違えばお父様の命令に背くことになりかねなかったのに。
それでも彼女は、そんな私に『仲良くなりたい』だなんて。
自分から獲物になりに来たような物だ。ちゃんちゃらおかしい。
だけど。
私は柄にもなく、嬉しい、だなんて思ってしまっていた。

とりとめのない会話も、彼女とすれば楽しいものだと。
昼食を二人で食べることが、こんなに良いものだと。
お日さま園に帰ってきたことが、こんなに詰まらないものだと。
彼女といればいるほど、どんどん深まっていく思い。
私はそんな思いに気づいてしまったけれど、享受することなど出来ない。
獲物に惚れるハンターなんて、いるのだろうか。
おまけに、相手は女で、私も女だというのに。
それでも、私には否定することは出来なかった。

作戦実行日、前日。
何を血迷ったか私は、彼女にもし自分が宇宙人だったらなんて、告げてしまった。
それでも彼女は、みょうじさんは、そんな私を拒絶しない、と。そう言って。
どうして。どうして、あの人は、私の欲しい言葉をくれるのだろう。


「         」


みょうじなまえを抱きしめる。
お父様に頂いた薬を嗅がせると、いとも簡単に彼女は眠りに落ちた。
目的は完了した。早く帰らねば。
ぽたりと雫がこぼれた。雨なんて降っていないのに。


もし宇宙人が貴女を攫いに来たとしても、貴女はもう一度微笑みかけてくれるのでしょうか。


答えなんて、分かりきっている
(幼い恋心を粉々に砕いて、私は愛しいひとを抱きかかえた)
(ごめんなさい、好きだったの)









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -