稲妻11 | ナノ






 私には気になる同級生がいる。
恋愛とかそういうことではなく、あくまで興味としての物だけれど、その人の名前は八神玲名、という。中々に洒落た名前だと思うけれど、そんな名前とは相反して、性格は良くいえば非常におとなしく、悪く言えば地味な感じの女の子だった。
 彼女、…私は彼女とはあまり喋ったことがないので、ここでは八神さんと呼んでおこう…八神さんは、その麗しい外見とは裏腹に、とても主張をしない子だ。
例を挙げるとすれば、授業中は手を挙げない。かと言って不真面目な訳ではなく、当てられたらきちんと正確な答を述べるし、休み時間はハードカバーを一人で読んでいるが、友達はいる。
ただその友達というのも『なんでも話せる大親友』というよりは『まあ仲は悪くはないし気が向いたら話す』程度の、彼女にとっては害のないであろうカテゴリに属するタイプだ。
世間一般でいう、模範生徒のような彼女は、しかしその普通な中身とは違い外見はとても注目を浴びるものだ。
頭髪は、青と、白。メッシュなのだろうか、ただ、クラスにも数名そのような人はいるし、たいして珍しいものではない。外国人のような相貌をした生徒なら他にもいるのだ。
それと、こういうと私がまるで無い胸のような捉え方をされてしまうかもしれないが、胸はある。足もすらりとカモシカのように長いし、肌は陶器のような美しさを保っている。同性として羨ましいなどと邪な考えを浮かべたことは決してないが、それでも、注目は浴びる。
器と中身が不相応というか、ここまで美人だったらもう少し主張する人間になってもおかしくないだろうか、私は常日頃そう思っている。そういうと少しばかり主観の入った考えになってしまうのだが、私は、今の彼女にある思いを感じているのだ。
 違和感。
つまりは、彼女は猫をかぶっているんじゃないか。しかし何のため?当たり障りのない行動を起こす理由は果たしてなんだろう。注目を浴びたくないのなら、その容姿を隠すだろう。私は無い頭を搾ってうんうん唸ってみせたりしたが、所詮は学年50位の頭脳、良い考えは浮かばない。
しかし私は疑問をそのまま放置しておくほどの人間ではない。気になったことはとことん追求するのが人間だと誰かも言ったではないか。探究心は悪いことではない、そう私は思う。私は新聞部の自称エース、こんなことでへこたれてどうする!
そこで私は、八神玲名という人柄を模索することにした。先ずは彼女と一番親しい友人らに話を聞いてみることとする。丁度今は昼休みだし。私はマイク代わりの苺牛乳と購買部で1、2を争うほどの人気を誇る焼き蕎麦パンを数個持ち、昼食を頂く彼女らの元へと向かった。お、良かった。丁度、いつもご飯をともにしている八神さんはいないようだ。
八神玲名の友人、皇マキと蓮池杏は二人してサプリメントを食していた。
さて、二人に関しての記述は果たして必要性のあるものなのかわからないが、一応記しておこう。
 皇は、髪型が特徴的で性格に難のある女生徒である。一人称マキ、口癖「マキ、むずかしいことわっかんなーい」、可愛い事を盾にして好き勝手する女王様気質の彼女は、それなりに人気もある。新聞部統計のミスコンでは上位に食い込むほどだ。
しかしまあ、世の男性諸君には可哀相なことに、彼女は快楽主義者の同性愛者でもある。ストライクゾーンはかなり低めなので大抵は安心して過ごせるが、ターゲットにされた者の学校生活に関する苦労は計り知れない。
補足として告げておくと、私は彼女に猛アタックを受けている。本命である。以前本気で嬉しくないバレンタインデーを迎えた。
タチならまだしもネコになるのはごめんなのでお誘いは断り続けているが、いつ押し倒されてしまうかと冷や冷やしてしまうくらいには長い期間を彼女と過ごしてきた。
…こういってしまうと誤解を招きそうだが、彼女とは幼稚園とはずっと一緒のいわゆる腐れ縁だ。決してそういういかがわしい意味ではない。
 蓮池さんは今年初めて同じクラスになった、所謂他人以上友達未満な関係だ。比較的常識人な彼女は友好関係も広い。少々ツンデレの気もあるらしい、我の強い好感を持てる女子だ。どうしてこんな彼女が皇と親友なのか本気で疑う。まさか懐柔されたりでもしたのだろうか。
 話は戻る。私は、机を固めてはやりのファッション雑誌を眺める二人にどうもと話しかけた。蓮池さんが私の手にもった物を見て首を傾げる。
「一緒に食べに来たの?」
「ううん」と首を振って、私は焼き蕎麦パンを持ち上げた。
「これあげるから、八神さんの事教えて」
私の言葉に、マキは怪訝そうに眉を顰める。
「もしかして、玲名の事好きなの?だめだめ、マキにしときなって」
「そういうつもりではないし皇の伴侶になる気は一生ないから安心して」
さらりと受け流し、ぶうと頬を膨らませる皇には目を向けずに蓮池さんに焼き蕎麦パンを差し出す。彼女は少し逡巡して、大人しく茶こげのパンを受け取った。机の上を見るとどうやら彼女はサプリメントしか食べていないのだろうし、腹を膨らませるのには充分だろう。
自分の座っている椅子から尻をずらして一緒に座らせようとする皇に甘んじて私はそこへ座り、はあはあとかかる吐息に少々ぞおっとしつつも蓮池さんに笑いかける。
「じゃ、教えて」
「隠し事とかは教えらんないけど」ぱりっと音を立てて焼き蕎麦パンを開封しつつ、申し訳程度に蓮池さんが首を傾げる。
「いいよ別に。ええっと、漠然とした質問じゃないほうが良いよね。二人は、八神さんとは親しいよね」
一番に皇が答える。「まあなまえよりは親しいと思うよ」それはそうだ。
「八神さんって大人しいけど、二人にもそうなの?」次いでの質問に、今度は蓮池さんが答えた。
「私達には砕けたかんじかな。あいつ、少し猫かぶってるし」
やっぱりか。
「どうしてか分かる?」
「分かるけど、教えられない。一応トップシークレットくらいだし、彼女の中では」
そうなの、と私は心なしか落胆した声音で言ってみせる。皇が目を逸らしているけれど、おい、胸に手を伸ばすな。ぱちんと子気味よい音を立てて皇の手をはたき、私は彼女らに向けていたマイク(という体の苺牛乳)をしまった。
「あんがと。あ、皇焼き蕎麦パンいる?」
「マキ、なまえの体が欲しい」
「オーケーいらないのね、わかった」私はもうひとつの焼き蕎麦パンを自分で開封しながら立ち上がった。ご協力ありがとうと蓮池さんに言う。
そこで蓮池さんは、小さな声で私を引き止めた。
「そういえばみょうじさんって、マキと仲良いのよね」
「まあ」少し不承不承な声音だが、間違ってはいない。マキが余計な事を言う前に口を塞いでおいた。
「つまり、同性愛者には偏見はないってこと?」
「ないよ。身近にいるせいもあるけど、そもそも恋に性別や年齢なんて関係ないという持論があるから」
これは本当のことだ。瑣末な問題で頭を煩わせる必要なんかない。好きなようにやれば良いのだ。皇は、黙って良いと思うけど。
それを聞いて、蓮池さんは少しだけ笑った気がした。もしかして蓮池さんもそういう人なのだろうかと考えを浮かべるが、そういえば彼女には恋仲に近い関係の男子もいたし、それはないかと改める。
「あと、好みのタイプってどんな?」二つ目の質問。
好み。答えあぐねている私に、私の拘束から脱出した皇が代わりに答えた。
「マキみたいな子」
「黙れ」
「……確か、自己紹介の時言ってたよね。大人しくて真面目な普通の人って」
皇に少しだけひきつつ、蓮池さんはそう言う。そういえば確かに、クラス替え当初そんなことを言ったっけか。たいして面白いこともいえそうにないので、項目に沿った答えを適当に言ったつもりだったのだけれど。
「言ってたけど、あれ適当に言っただけなんだ。正直どうでも良いかんじ」
「そそそそそうなの!……適当」
蓮池さんは私の返答を聞いて目を瞬かせ、ぼそっと呟いた。疑問符を浮かべる私。何か変なことを言っただろうか。疑問に思っていると、「みょうじさん」と名前を呼ばれ、私は慌てて振り向いた。
「あ、八神さん」
どうもと軽く挨拶をすると、八神さんはぎくしゃくしながらこくりと頷いた。まるで潤滑油のさしていないロボットのようだ……失礼なことを考えながら、私はじゃあと軽く手をあげる。
「ジャア」
「…赤いと三倍早いの?」
明らかに片言な言葉を聞いて一部の人達しか分からないような返答をしつつ、私は椅子から立ち上がり彼女の横を通って自分のテリトリーへと歩いていった。
私の机では、クララと愛が持ち込み可能のトランプを使いタワーを形成していた。クララはサディスティックな女の子で、愛が少しマゾの気があるのかもしれない女の子。二人とも私の大切な友人たちだ。
 ようと軽く声をかけると、先に気づいたのは愛だった。なまえ、と私の名を読んだのは良いが、勢いよく立ち上がったせいでトランプタワーはばらばらと音を立てて崩れてしまう。それなりに高い位置まで来ていたのに残念な事を。
黙々と作業に没頭していたクララはただでさえ薄い色素の肌に青筋を立て低い声を出した。
「ねえ、愛」
「……ご、ごめん」
写真も撮る前だったみたいで、本当に残念そうに残骸を見つめる。私はまた作れば良いじゃないとなんとか暗い空気を払拭するよう微笑んで、自分の席へと座ってトランプを集めなおした。
「どこいってたの?」
相当な数を使ったらしいトランプタワーの残骸をかき集めながら、愛は疑問を浮かべた。代わりに答えたのはクララだ。
「蓮池杏達の所よ」
「ああ、あの」
それなりにあの三人は有名なので、それだけで話が通じる。一番有名なのは間違いなく皇なのだが。
「なんで?」
「また新聞の取材とかなんでしょ」
「今回はまあ、自分の知的好奇心の探究も兼ねてかな」
というか別に記事にするつもりなんてまったくないけど、私はそう濁しながら当たり障りのない返答をし、焼き蕎麦パンに齧りつく。すっかり冷めてしまったけれど、ソースの良い香りが私の鼻腔をくすぐった。
「あ」
 トランプタワー完成間近で、そう間抜けな声をあげたのはこれまた愛だった。彼女は何か疫病神にでも好かれているのかもしれない、軽く動かした腕が土台のトランプを直撃し、哀れタワーは再び頂上へとまみえることなく崩れ落ちてゆく。それなりに時間をかけたものだったので少なからず私もショックだった。
「愛」
私とクララの声が重なる。当然、ただでさえ沸点の低いクララも二度目を迎えた惨劇に完全にキレていた。
「ご、ごめんー!マジごめんー!……いや、というか、ね?」
平謝りの愛は片目を瞑りながら私の後ろを指差した。
言われるがまま振り向くと、そこには顔を真っ青にさせた八神さん。いつの間に。愛は彼女を見て驚いたのだろうと推測を立てた。
「ごめんなさい」
八神さんは慌てて頭を下げた。恐らく、トランプタワーにたいしてだろう。私はいいよいいよと笑う。
「悪いのは愛だから。豚の為に謝る必要なんてないわ」
「クララー!」クララの容赦ない言葉に愛が若干涙目になる。流石に可哀相だとは思ったが自業自得でもあるので無視。
「それで、何か用?」
ここまで来たからには何か理由があるのだろうと、私は八神さんに問いかける。もしかしてさっき忘れ物でもしてしまったんだろうか。
八神さんは私の言葉に青かった顔を今度は真っ赤にしてみせた。あなたは信号か。
「あ、ああああの、その、これ!」
「うん?」
八神さんはばっと私に手を差し出した。手に握られているのはノートの切れ端。
多分慌てて走り書きかなにかしたのだろう、黒板で見たことのある彼女の字とは程遠いくらいの乱雑ぶりだ。
ありがとう、と言って私はそれを受け取る。八神さんは早歩きで蓮池さんたちのところへと戻っていった。クララが首を傾げる。
「なんて書いてるの?」
「放課後体育館裏に来て欲しいって」
「え?それなんて果たし状?」
放心していた愛がきょとんとそんなことを言った。は、果たし状。
「このご時世に果たし状」
「いやでも前私が見た少女漫画はそんな展開だったわ!何かしたのなまえ!」
「してな―……いやした。めっちゃした!」
もしかして彼女は根掘り葉掘り聞かれるのはいやなタイプだったのだろうか。恐らく蓮池さんから聞いたのだろう。口止め料として苺牛乳も渡すべきだったと後悔するがもう遅い。
思えば先ほど顔を赤くしていたのも、怒りによるものなのだろう。どもっていたのも、平静を保てなかったから?そこまで私は彼女を怒らせてしまったのか。
「……私、明日ケーキバイキングに行ってくるんだ」
「そんなあからさまな死亡フラグ立てないで!私はなまえの味方よ!」
「……あんたたち馬鹿でしょ、馬鹿なんでしょ」
冷や汗をだらだら流す私たちとは違い、クララはまたトランプタワーをせっせと作りながら私達にそう一言呟いた。
…と、そういえば、クララは1年の時八神さんと同じクラスではなかったっけ、ふとそんなことを思った。思いつくがままに聞いてみると、クララは呆気なく肯定した。み、身近に情報提供者が!
「や、八神さんって前からあんなに優等生だった?」私の問いにクララは首を横に振る。
「まあ優等生ではあったけど、あんなに大人しくはなかったわ」
続けて「よく、クラスメートの基山に暴力を振るっていたし」
「そうなの?」想像もつかない。基山君と言えば隣のクラスで、サッカー部のエースだ。そんな彼を雑に扱えるだなんて。今の彼女からは微塵も浮かばない。
「ええ。彼女…きっとドエスね」
「ドエストフスキー?」
「ドストエフスキーね。それだとサディスティックな豆腐が好きなただの変態だから」
愛が典型的なボケをかまして、私はそれを真顔で訂正する。一度豆腐の角に頭をぶつけてきて良いと思うの。それで、と私は息を呑む。
「八神さんって…怒ると怖い?」
「明らかにさっきのを引き摺った発言なのだけれど、私にはそれに答える義務はないわ」
面白そうに微笑んで、クララはトランプをつい、と私に示した。絵柄はクイーンの…スペード。
「どういうこと?」
「なんでもないわ」
くすくすと笑うクララにいらっとしながらも、私ははあとため息をついた。トランプタワー倒してやろうか。
 それからはあっという間だった。5時限目の英語も終わり、ホームルームも終わり、掃除も終わり、部活動のない私は帰る時間。……けれど、帰ってはいけない。八神さんに呼び出されているのだから。
「なまえ!こうなったら私も行くわ!何かあったらもがもが」
「やめなさいこのデバガメ」
私と同じように帰宅部のクララが愛を抑える。ちなみに愛は女子バスケ部だ。それなりに良い成績をおさめているらしい。
どうしてよ、と愛が頬を膨らませた。「親友の危機なのよ!」
「いや愛、いいよ。呼ばれたのは私一人なんだし」
「なまえまでそんなこというー」
「良いからあんたはさっさと行きなさい」
ぺいっと軽々愛を私から引き剥がす。元々愛は小さいので呆気ない退場だった。
じゃあ行ってくるね!鞄を持ってそうポーズを決めると、クララはにやにや笑いながら私に手を振ってくれた。
「ここね」
 指定された場所、体育館裏。ここは新聞部調べによると、もっとも告白で呼び出される場所アンケート一位だ。
だから、私達以外の誰かがいたなら申し訳ないなと思っていたのだけれど、それは杞憂だったようだ。ここには、私と八神さんしかいない。
「ごめんね、遅くなって」駆け寄りながらそう謝罪すると、八神さんは首を横に振った。
改めて、まじまじと彼女を見つめる。やっぱり……美人だよ。ミスコンではその性格から10位内こそなかったけれど、かなり上の方をキープしていた。
そんな彼女に怒られるって、そりゃあ一部の人は喜ぶんだろうけど、私はそういう属性はないのでただの重荷にしかならない。ただの知的好奇心は時にわが身を滅ぼすのか、たは。
「…恥ずかしいんだが」じっと見ていた事についてか、八神さんは少しだけ頬を赤くした。
「ごめん」と、そこでふと疑問に思う。
「八神さんって、そういう」
「え!?あ、……ああ。素はこんな感じだ」
随分と男らしい口調だなと私は思った。それでも、この風貌と声からしてみたら、ハスキーな女の人って感じだ。可愛いより、格好いい。
なるほど、素はこういう人だったのか。疑問のひとつが解消された。しかし、何故猫をかぶる必要があるのだろう。こんな子ならよっぽど人気が出るだろうに。おもに女子に。
「それで、あの、ごめん!」先手必勝とばかりに、私は勢いよく頭を下げた。
「……えっと」
八神さんの当惑したような声が聞こえる。
「なんで謝るんだ」
「え、だって、私が根掘り葉掘り聞きまわっていた事に対して怒っているんでしょう?」
今までの感じからすると、そうとしか考えられないんだけど。いきなり素を見せてくれたのも、怒りが頂点に達していて猫をかぶる必要性がないとか、じゃないの。
八神さんは私の主張を聞いて、ふい、と目を逸らした。
「いや、別に、怒っているわけじゃ」まじでか。
「そうなの!?じゃあ、なんで私を呼び出したの?」
そう問うと、八神さんは今度こそ頬をぼっと赤くした。や、やっぱり怒っているんじゃないのかな!そうとしか考えられない!
「……みょうじって、よく、鈍感って言われないか?」
鈍感。「そうかな。新聞部だし一応他人の感情は読み取れるよう勉強しているんだけど」
ただ、自分の事に関しては少し。そう続けると八神さんにため息をつかれた。少しだけ傷つく。
「…それで、みょうじをここに呼び出した理由なんだけど」
「うん」心なしか身構える。
「みょうじ、今好きな人とか…いないんだよな」
「いないです」
「あと、同性愛者に偏見とか…」
「ないでせう」
「皇のこと、どう思う?」
「どうって…ちょっとうざいけど悪くは思っては」
と、そこで唐突に気づいてしまった。もしかして、もしかして!
この質問から想像できるのは、八神さんが実は同性愛者で、そして皇が好きで、皇が好きな私のことを疎ましく思っていて、だから私に好きな人を聞いたのでは!
我ながら完璧すぎる推理だと思うのだけど、だとしたら、返答次第によっては……。
私は、クララが教えてくれた八神さん伝説を思い出す。基山君を足蹴にしてクラスで恐れられた、暴君伝説。冷や汗がだらりと垂れる。
「あの、」
「私皇なんて正直なんとも思ってないから!八神さんと皇って正直私もお似合いだと思うし!二人ともお幸せに!」
「え、え?」
私の言葉にびっくりする八神さん。「どうしてそうなる」八神さんは首を傾げた。
「八神さんって同性愛者で皇の事が好きで私の事を疎ましく思っているんじゃないの?」
「ねえ、妄想を間に受ける性格って良く言われない?」
「言われる」
再び大きなため息をつかれる。ということは、もしかして今の推理も間違っていたのだろうか。こんなんじゃ新聞部失格…もっと精進しなきゃ。はあ。
「私は確かに同性愛者だ」
「そうなの」
それは当たっていたようだ。だけれど、私の周りには同性愛者が多いなあ。皇に八神さんにあと…。
八神さんは頬を真っ赤にして、私に言った。
「私が好きなのは、みょうじだ」
「私」
「ああ」
そこで、私はぴんと来た。そういえば蓮池さんは私に好きなタイプのことを聞いていた。
真面目な性格が好きなのかと、そう言ってきたではないか。
つまり、彼女は私のその適当に言った言葉を信じていて、それを裏切られたからこそあんな落胆したような声を出していた。
蓮池さんは皇と、そして八神さんと親しい。そして彼女たちもまた、私のそれを聞いている。何しろ同じクラスなのだから。
私は何を調べていた?八神さんが猫をかぶっているんじゃないかということだ。それは事実で、彼女は猫をかぶっていた。それは、
『大人しくて真面目な普通のひと』。
なんだ、八神さんは私に好かれるために、猫をかぶっていたということか。現に、その情報が嘘だと露見した今、猫かぶりをやめているじゃないか。
「そういうこと」
「う、うん。…好きなんだ」
八神さんは今度は、真面目な表情で私に愛の告白をした。
今にも消えてしまう彼女を、皇と違い無碍には出来ない。この人は、真剣なんだ。それでも、私は。
「正直言って、私は八神さんの事をあまり知らない」
「それは、つまり…」
「ノー、ではないかな。実は私、八神さんの事気になってたんだ。あ、そりゃあ、恋愛感情ではないけど」
「…うん」
「だからね、大親友から、始めない?」
彼女の秘密を知っている私がただの友達というカテゴリにくくられるのは些か割にあわないだろう。そういうことで私は、言って、微笑んだ。八神さんも泣きそうな笑顔で、私が差し出した手を握り締める。
「ああ、よろしく、なまえ」
「よろしく、玲名」

 新しい友達が出来ました。そのひとは、八神玲名と言います。自我が強くて腕っ節も強くてとっても美人さんで、私はその人が大好きで、彼女も、私のことを愛しています。


大親友が出来ました


「そういえば、八神さんは知ってる?」
「何を?」
「トランプの、スペードのクイーンの意味」
「…悪女としてよく扱われるわね」
「…」
確かに皇を無視するし八神さんのことも気づかなかったけど、それはどうなのクララ。というかあんたわかってたんかい!








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