(百合) 「何これ?」 私の持っていた写真を手にとって、なまえちゃんは可愛らしい笑みを浮かべた。無邪気な笑顔にどきっとする、けれど同時に、想定できない最悪の事態に冷や汗が流れるのを感じた。彼女が持っているその写真は、その。写真は。 「これ、私…だよね。いっぱいあるね」 「…えっ、と」 「どうして冬花ちゃんが私の写真をいっぱい持ってるの?」 ニコニコニコニコ、微笑んで疑問符を浮かべる彼女は本当に愛らしい。そんな彼女を、私は愛している。だけれど私は女でなまえちゃんも女、こんな気持ち伝えられるわけがない。だから今までずうっと黙っていたのに、よりによってこんな形でばれてしまうだなんて。思ってもいなかった。 「これは、風丸君と買い物したとき。これは、休憩中に秋ちゃん達と喋っていたとき。これは、朝起きて髪を梳いているとき」 「…あ、あの。私…」 事態を把握したのか、彼女はさあ、と無表情になって写真を食い入るように見つめた。私の努力の結晶。…隠し撮りも、今では誰にも気づかれないほど上手になった。今回はそれが裏目に出てしまった、ようで。だって、おかしいよね。彼女の記憶のなかではきっと、その場面に私はいない。いてはならないはずなのに。そう考えるとどんどん自分が惨めたらしく思ってしまって、私は力なく床に崩れ落ちた。両の手の平で頬をおさえる。後悔したって変わらない。 きっと私は彼女に、軽蔑されてしまう。当たり前だ。そして私は皆に嫌われてしまう。女に恋する女。ヘンだもの。ぜったいにヘン。 「なあんだ」 私の予想に反して、彼女の反応はごくごく自然なものだった。唖然とする私に自分の隠し撮り写真を平然と返して、また先ほどと変わらずににこにこにこにこ、微笑んでみせた。どうして。 「なんで、笑って」 「ねえ、冬花ちゃん。良いニュースともっと良いニュースがあるの」 なんのことだか、さっぱり分からない。置いてきぼりのような感覚を覚えた。 「良いニュースはね。…私ね、冬花ちゃんの想いに気づいちゃった」 ああやっぱり、と胸がじくじく痛んだ。そうだ、それで私は。きっと。地面を見つめる。穴があったら入りたい。 「もっと良いニュースはね、冬花ちゃんの恋が両想い、ってこと!」 思わず下から彼女を覗きこむ。なまえちゃんは清清しいほどの笑顔で、私に手を差し伸べた。私は、震える手でそれを握り締めた。あたたかかった。 |