稲妻11 | ナノ






一応世の中の定義としては幼馴染というものに分類される私と源田は、家が隣同士ということもありとても仲が良かった、と、思う。幼稚園小学校と一緒に登校下校していたし、一緒のクラスにはなったことがないけれど教科書を貸して借りて、宿題も写しあいしたりととても接触していた。だからそんな私たちを見てクラスメートは色々詮索だのしてくるようになって、そういう身勝手な恋バナに嫌気がさした今、帝国学園に通ってはいるものの一緒に登校したり下校したりお昼食べたりなんだりはしなくなった。相変わらずクラスも違うし、最近はサッカー部の朝練の為に朝早くに家を出る時くらいしか、彼を見たことがない。寂しいなあとは思うものの、今頃よりを戻す(この表現は多少間違っている気がしないでもないけれど)のもどうなのかと思っていた。源田は今サッカーに熱中していることだし、私がのこのこ出ていってそういう時間を削らせるのはなんだか可哀想だ。(怖かったのかもしれない)。


授業も終わりうつ伏せになる。昨日から親が旅行に出かけていて(もう年なのに二人の仲は良好だ。良い事なのだけれど)、だから私は朝早く起きて朝食やら選択やら大忙しだったのである。大学生の兄はお昼に起きてくるから、あてにはならないだろうし。ちゃんとメモ読んで洗濯物取り込んでくれてるだろうかとうつらうつら船をこぎそうになりながら、私は教科書とノートを机の中にしまった。昼休みは退屈な時間のひとつ。いつもは友達が騒ぎながら私の机にもたれかかるのだけれど、今日はその子は風邪でお休みだった。見舞いにでも行こうかななどと考えつつ、鞄からちまい弁当を取り出してなんとはなしに窓の向こうに目をむけた(私の席は窓側一番後ろ。何故か昔から席替えに使う運は良いものだった)。青い空、その下には体育館。そしてその体育館のそば、隠れるように二人の男女がたっていた。

「(告白かな)」

よく見れば、男の方には見覚えがあった。源田だ。どんな表情をしているのかはわからないけれど、どうやら、女子の方が告白しているらしい。だれに?源田に。彼は顔は悪くないし、おまけに人気のサッカー部だ。モテない筈が無いのだろう。女子がお願いします、とでもいうように頭をさげて、それに対して源田は酷く慌てる。昔から女の子の泣き顔とか弱かったもんなあ。私が足を擦りむいて泣いたとき、彼は酷く慌てていた。…そのあと、どうしたんだっけ。記憶はまるで最初からなかったかのように欠落していた。覚えてはいたくないものだったのだろうか。そんなことを考えているうちに、話は進んでいたようで、こちらにまで聞えてくるかのようなビンタが、サッカー部ゴールキーパーに当てられた。

「(痛そうだ)」

強烈なそれに思わず顔を顰めてしまう。女子は多分、泣きながら…走っていった。源田はその場に立ち尽くしてしまっている。断ったのだろうか、可哀想に。名も知らぬ女子に同情をしながら、私は自分で作ったお弁当に箸をいれた。冷めている。残り時間が少ない昼休み、源田も可哀想だなあ、お弁当食べる時間が減っちゃって。他人事のように(まあ事実なんだけど)考えて、玉子焼きを噛み締めた。お砂糖を入れ過ぎたためか、あまあまだった。はあ。


茶道部が終わった。うん、と背伸びをすると、ぽきぽきと骨が鳴った。うわあ…。真っ暗な帰り道。少しだけ怖かったけれど(最近は不審者もでるらしいし)、それよりも眠気が勝っていた。人間、三大欲求には勝てないものである。街灯に照らされた道を只管歩く。ちょうど角を曲がったときだった。どん、と何かにぶつかって、受身などできるはずもなく、私は無様に尻餅をついた。ずきり、と足が痛んだ。


「い…ったあ」
「す、すまない!…あ、」


打ちつけられた腰をさすりつつ、涙を拭う。顔をあげると、困ったような顔をした源田が立っていた。そうか私は、こいつにぶつかってしまったのか。なんとなく、気まずい空気になってしまう。「…源田は大丈夫?」「あ、ああ」どうして彼が此処にいるんだろう。疑問はしかし口から出る事はなく、制服姿だし、丁度帰りだったのだろうと自己完結をした(些か、矛盾はあるけれど)。立ち上がろうと足に力を入れた途端、足に痛みが走った。「どうした?」「捻った」「そうか」視界が暗くなり、浮遊感。そこでようやく私は、源田に抱っこされていることに気がついた。何事、何事!離してよとは言うものの、源田はそのつもりはさらさらないようだった。仕方なく鞄をかかえて、無言を貫く。正直言うととても恥ずかしかった。そりゃあ小学生とかならまだしも、中学生が抱っこって。しかしそこは源田、無表情でただ歩く。沈黙が痛かった。


「迎えに来たんだ。」
「誰を?」
「みょうじを。」
「なんで?」
「みょうじの叔母さんに頼まれて。」
「お母さんに?」
「最近は不審者が出るようだし、茶道部はサッカー部より終わるのが遅いから、って。」
「…ごめん」


あのにこにこした笑みの母親が目に浮かぶ。旅行前にそんなことをしていたのか、あの人は。源田は歩きながら「良いんだ」といった。「みょうじに会いたかったから」続けられたその言葉は聞き間違いなのだろうか。思わず彼の顔を覗きこむと、前だけを見ているその目は若干揺らぎを見せていて、幼い頃にはなかったフェイスペイントが描かれた頬が、すこしだけ赤みを帯びていた。なんとなく、私は見て見ぬ振りをした。指摘なんてできやしない。私はこの赤みを夕日では誤魔化せないなと思いつつ、ぎゅう、と鞄を抱きしめた。


違える道を歩いてゆくなら
(私はもう少しだけ彼に身を寄せていようと、)彼の胸にこてんと倒れこむと彼は驚いたように目を見開いていたけれど、やがて昔のように笑ってみせた。それを見て私は空白の記憶が今と同じものだと気づいて嬉しくなると同時にもやもやとした感情をいだいた。暗い暗い道はおさない私たちが今まで歩いてきた道だった。







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