(男主) イナズマキャラバンの一員ではあるものの、レギュラーではない。…補欠、まあ、短絡的にいうとそんなもんである。雷門中学サッカー部である俺は何故かジェミニストームとの試合で負傷しなかったので、数合わせとして連れてこられたのだ、この故郷から遥か遠い地に。熊殺しの吹雪も仲間になった事だし、似非FWである俺は完全にベンチ入りとなっている。ハロー目金君、調子はどうだい。試合に出られなくなったのは悲しいところではあるが、ひとつだけ、嬉しいこともある。 「ほらそこ、守りが甘い!」 「はいっ!」 瞳子監督の声に、壁山がびくりと体を震わせて構えた。先程からメンバーの動きを睨むように眺めているのが、俺たちの新しい監督、吉良瞳子。初めて会った時は随分と怖い人だなあなどと思ったりもしたけれど、今は。…うん、まあ、叶う筈もないんだろうけど。俺年下だし。 「…さっきから何じろじろ見ているの?」 「え、あ、何でもありません。」 「そう、ならいいわ。」 瞳子監督は俺を見つめ、そしてまたグランドに視線をうつした。整った表情は横から見ても分かるくらいに美しい。話しかけられた事に若干の嬉しさがわきあがり、俺はしたを向いた。監督にはこの頬の赤みを見られてはいけないのだから。 「あれ、みょうじ君もしかして、」 隣に座っていた目金君がきらりと眼鏡を光らせた。正直ややこしい事この上ないのだが。にやにやと笑みを深めながら俺を見つめる彼をぽかりと殴って、とりあえず黙らせる。 「痛いなぁもう!何するんですか!」 「言っとくけど皆にバラしたら殴るからな!」 「もう殴ってるじゃないですか…。」 いたたたた、と頭をさする目金君は「告白とかしないんですか?」と聞いてくる。ばっ馬鹿野郎!ともう一回手加減して殴ってみる。「叶う筈ないんだから、そんな努力はしなくて良いんだよ。」俺の言葉に目金君はふうんと呟いて、また手元の漫画本に視線を戻した。そうだ、伝わるはずのない想いなのだから。 (俺はこの感情をしらないフリをして、監督の傍にいれば良い) なりそこないは今日も夢見る |