しとしとザアザア、雨は止むどころか先程より激しさを増していました。委員会で遅くなった私は、呆然と玄関で立ち尽くしてしまいます。寝坊して、天気予報を見ている暇もなく家を出た私への嫌がらせなのでしょうか、そうなのでしょうか。ただし、遅くまでゲームをしていた私には、ある意味自業自得なのやもしれません。ロールプレイングゲーム、でしたか。勇者になって世界を救うという王道の展開は、しかしながら私をとてもわくわくさせるのです!…悲しいことに普段予備にと置いてある傘はひとつもなく、私の心にまで曇り空が侵食してきます。もうこんな時間、早く帰らねばお腹を空かせた妹が空腹の余りテーブルをかじってしまうやもしれません。それを考えるとさあ迷っている時間すらございません、大切な書類がはいった鞄だけは死守せねばと革のそれを抱きしめたその時、背中から私に声がかかりました。何事かと振り返ると、佐久間君…ですよね、なにしろ面識がないので噂でしかわかりません…が立っていました。少し息を切らせています、走っていたのでしょうか。 「いっいま、帰りか」 「はい、そうです佐久間君は…サッカー部でしたか。」 今しがた部活が終了したのでしょう、佐久間君が持っている鞄には、半ば乱暴にユニホームが詰めてありました。…部活が終わったわりには、他の部員さんが見当たりませんが、私には関係のないことです。佐久間君は私の前に立つと、ずい、と手を差し出しました。握られているのは、 「傘がどうかしましたか?」 「貸す。」 「え?」 「だから、貸すっつってんだよ!」 半ば強引に傘の柄を握らされ、佐久間君は真っ赤な顔を隠すように俯いて私の横を通りすぎていきます。慌てて振り返ると、雨の中鞄を頭の上にやり走る佐久間君が視界にはいりました。それをみて私は、風が大人しいのを確認してから傘を広げ、彼の後を追うのです。 「まって、一緒に帰りませんか?」 佐久間君の腕をつかみそう声をかけると、佐久間君は驚いたように目を瞬かせ、ああ、とうわごとのようにつぶやきました。あら、どうしたことでしょう、その時私の胸に、熱く冷たい(相対する言葉ですが、本当にそういう感触だったのです、)なにかが込み上げてきました。もしかして神様、この気持ちは。 おおゆうしゃよ、こいしてしまうとはなさけない |