稲妻・木野(百合) ぎゅうっと秋ちゃんの体を抱きしめると、秋ちゃんは「苦しいよ」と言った。「苦しい?」うん、と返されて手を離す。彼女のことは大好きだけれどそんな、困った顔を見るのが楽しいとか、傷ついた表情が良いとか、私はそういう変態じゃないから、彼女が苦しむようなことはしたくない。 「どうしたの?」 「だって秋ちゃん、今日大谷さんと喋ってた」 「…うん」 ちょっとだけ心がずきんとした。だってあんなに楽しそうに。私に見せる表情とはちょっとだけ違う。ひどいじゃない。だって、秋ちゃんが好きなのは私で、私が好きなのは秋ちゃんなのに。 「音無さんに抱きしめられてた」 「スキンシップ激しいから仕方ないよ」 「…そうだけど、でも」 言い出せば数え切れないくらいに、私は心のずきずきを体験していた。もう、はちきれそうなくらいに。秋ちゃんは「ごめんね?」と首を傾げた。 「私が他の子と話すから、嫉妬しちゃうのよね?」 「秋ちゃんは悪くないよ、悪いのは私なの」 「そんなことない。私が悪いの」 「ちがう、違うよ」 堂々巡りの罪の所在。秋ちゃんは薄く微笑んだ。「私が好きなのはあなただから、ね?」確認するような声音に、私はうなずいた。ごめんね、私こんな方法でしか貴女を愛することが出来ないの。嫉妬することでしか、貴女への愛を確認できないの。 「でもね、私も同じこと経験してるのよ」 「秋ちゃんも?」 「だって、さっき東くんと話してたじゃない。私、※してしまいそうなほど憎かった」 「ごめんね?」秋ちゃんは言った。「ううん」私は笑った。 |