(百合) 冬花ちゃんの白い指が私の髪をするすると梳く。伝わってくるのはむず痒い感覚と少し冷たい彼女の温度。「どうしたの?」ほんの少し顔を向け問うと、彼女は「ううん」とかぶりを振った。 「なんでもないの」 「冬花ちゃん、くすぐったいよ」 「そう、ごめんね」 「いいけど」 あくまでこの問いは照れ隠しのつもりだった。だって、冬花ちゃんに触れられているんだもの。どきどきする心臓をぎゅう、っと握られているような感覚にとらわれる。今にも呼吸が止まってしまいそうだ。冬花ちゃんはそんな私を気にすることもせずに、ただ両の手を使って私をもてあそんでいた。 「ねえ、どきどきしてるでしょ」 「どうして?」 「分かるの」 「…それじゃあ、答えにならないよ」 「でも、言っていいの?」 その問いが何に対するものなのかということくらい、私にだってわかった。「ちょっといやかも」「でしょ?」くすくすくすくす、笑い声が聞こえる。他でもない冬花ちゃんの笑い声。そんな彼女に背を向けている自分をすこしだけうらめしく思った。だって、見えないじゃない。 「良い天気だね」 「その話の逸らし方は、私でもどうかと思うよ?」 「別にいいの。…こんな天気の日は、海で泳いだりしたいね」 「そういえば、近くに海あったよね」 「そうだっけ?」 「うん。綱海さんが、朝いつもサーフィンしてる」 「あの人らしいなあ…ねえ冬花ちゃん、私達も行ってみようか」 ちょうど明日は、久しぶりの休日だ。毎日練習詰めっていうのも体に悪いし、ということらしい。選手達も自由行動をとるだろうし、私達の出番はない。冬花ちゃんは「それ良いね」と言った。 「でも、水着はどうするの?」 「レンタルとかあると思う。あとで、秋ちゃん達も誘ってみようか」 「え、誘うの?」 「そのつもりだけど、いや?」 正直、冬花ちゃんがこんなことを言うとは思わなかったので、すこしあっけにとられた。「いやかも」「どうして?」いくらか、雰囲気が変わったような気がする。冬花ちゃんの手はいつのまにか止まっていて、かわりに、先ほどまで私の髪を撫でていたその指は、私の頬につきたてられた。 「私、なまえちゃんの水着姿を独り占めしたいから」 「え?」 「なんて、冗談。皆で行こう」 ね?と冬花ちゃんは私の首に腕をまわして、肩にあごを乗せた。「そうしようか」少しドキリとしてしまった私の心音、きっと彼女には気づかれているんだろう。 |