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きらびやかな調度品、広い部屋、そんなものは私には似合わない気がした。そういうといつも彼は否定するけれど、でも、庶民と変わらないただの人間である私がこういったものに囲まれて過ごすだなんてそんな、ねえ。私はこの部屋から出る事は出来ない。一国の姫という立場にある私は、外出すらままならないのだ。ひどい話、だとは思うけれど、そうする事でしか、他国の敵から私の身を守るということは出来ないのだろう。守られる立場の私は何も言えない。お父様は私にさまざまなものを取り揃えてくれる。…そんなものより、私には隣にいてくれる人がいたら、いいのに、だなんて。我侭なだけなのかしら。


「ルートヴィッヒ」「はっ、御用でしょうか、姫様」「敬語、止めてと言ったでしょう?…何か、お話して欲しいの」お抱え騎士であるルートヴィッヒは、それなりに位が高い。そんな彼を直属の護衛騎士に任命したのは他でも無い私だった。


彼は庶民の生まれだけれど、剣の腕はすばらしいものだった。そして何より、彼は私に対等の態度で接してくれる。他の騎士や使用人は、私がいくら敬語は止めてと言ってもその態度を覆すことはなかった。わかっていることだったけれど、友達もいない私には苦痛でしかない。ルートヴィッヒは、唯一、私の命令に頷いてくれた。忠誠心が人一倍高いだけなのかもしれないけれど、うれしくて、仕方が無かった。


「最近忙しいみたいだけど、何かあるの?」


恥ずかしいことに私は、自国の情勢を把握しきれていない。それは私が幽閉されているからというのもあるし、情報の伝達手段があまりないということにもあるだろう。ソファに埋まる彼は心なしか眉を潜めて、「戦争があるんだ」そう、言った。


「戦争?」
「ああ、近々、大きな…すまない、これは言ってはいけなかったのかもしれない」
「いいのよ、続けて」
「…内政が大きく崩れているのは、知っているだろう」


それで国民が反乱を起こして、他国に寝返ってしまった。そこまで説明して、ルートヴィッヒは、顔を暗くさせた。「…そうなの」嘆息する。当たり前、だという気がした。私たち王家は金を湯水のように使っていたし、国民に良く思われていないのは忍びで城下街に行った時にわかっていた。こんな国、滅びてしまったほうがよっぽどいいのかもしれない。王家の人間なのにそんなことを考えてしまう。


「それじゃあ、貴方も、戦争に?」
「ああ、俺も兵士だからな」
「行かないで」


私の問いに彼は幾分か返答に詰まったようで、困ったような表情をさせてしまった。そんな顔をさせたいわけではなかったのに、私はこの思いを他に言い換えるすべを持っていなかった。「…それは、無理だ」返答に、思わずドレスを握り締めた。


「どうして、…命令、なのに」
「俺にはお前の命令より、お前の父親の命令の方が大切だからな」
「貴方は、お父様の騎士ではなく私の騎士なのに、ねえ、なんで、」
「…すまない」


ぼたぼたぼたぼた、ドレスに染みが出来ていく。冷たい。


「謝らないでよ、…皆、そうなのよ、私の元から離れていって、私はいつも、一人」


幼少の頃一緒に遊んでいた兵士も、何かと世話をやいてくれていた使用人も、侍女も、ああ、誰一人私の元に留まっていてはくれなかった。お母様は病に伏せり、お父様は私に見向きもしない。兄上は死んでしまわれたし、私には、(なにも)。


「俺は」


ふわりと仄かに清潔そうなにおいが舞った。抱きしめられている、そう気づいたのに、離れようとは思わなかった。低音が耳に心地よい。涙を掬われる。「俺は、帰ってくる」かえってくるから、待っていて欲しい。その言葉を反芻して、でも、私は、「うそよ」否定することしか出来なかった。


「本当だ」
「うそ」
「絶対に」
「そんなわけないわ」
「…なあ、なまえ」


初めて、名前を呼ばれた。「帰ってきたら、話したい事があるんだ」「…今では、だめなの?」「ああ、今じゃ、駄目だ」どうしてなのだろう。また、なきたくなった。


「だから、俺の為に笑ってくれないか」


笑って見送ってくれないか、私は、口角をあげて精一杯微笑んだ。涙が止まらなかった。



冷たい手を彼の頬に這わすと、ぬくもりが伝わってきて、どうしてだろうか、心がぽかぽかとして、「  」。自分でもなんて言ったのか分からないけれど、彼は微笑んでいた。そのまま、彼は大きな手で私の手を握り締める。握り締められた手は温かくて、まるで、氷をとかされているような気分になった。「    」「     」ルートヴィッヒの呟きは聞こえなかった。








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