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(越ちゃん/百合/甘)






「なまえが、大嫌い。」


今日は休日。何の前触れもなく行き成り私の家までやってきて何か用事でもあるのだろうかと思っていたら。ソファに体を埋めて、私の淹れた紅茶を飲みながら、越はなんてことないように言ってのけた。思わず、持っていた紅茶のカップを手から零してしまう。膝の上に落っこちたカップは割れる事はなく、だけど中に入っていた熱々の液体は私の服を広範囲にわたって汚した。げ、びしょびしょ。開けていた窓から入る風のせいで肌寒い胸元をおさえつつ、取り敢えず立ち上がる。


「ごめん、着替える。」


越に背を向けて、カーテンをかける。どきどきと五月蝿い心臓を抑えつつ、箪笥から代わりの服を取り出す。嫌い。嫌い?行き成り告げられたその言葉は私の心を深く抉る。それもただの嫌いじゃなくて、大、嫌い。悶々とする気持ちが私の心を支配する。カーテンの隙間から彼女の姿を覗くと、越はいつものように紅茶を啜ってぼうっとしていた。うう、意図が掴めない。行き成りこんな事を言い出した意図が。


「ね、ねえ越。今日は何か用事あって来たの?」
「別に。」
「…そう。」


心なしか冷たい気がする。カーテン越しに聞いた彼女の声は、私の心にぐさぐさと突き刺さった。ほら、漫画的表現みたいな…。越はこんな事を言う為だけにここまでやってきたのだろうか。もしそうなら随分ご苦労様というか、こう。ぽっかりと穴があいたような感覚が私を襲った。メンタル面は結構強い方だと自負していたけれど、彼女の一言にこんなに傷ついてしまうなんて。それほど越の存在は私を大きく支えていたのだろう、と思うと、無性に悲しくなった。


背後のカーテンがかさりと音を立てる。丁度服を着整えていた私を、誰かがぎゅうと抱きしめた。背中に、頬に、温かさが伝わる。今この家にいるのは私と越だけで、それなら、…それなら。


「ごめん。」
「…何が?越。」
「嘘ついた。」
「嘘?」
「今日、エイプリルフールだから。湾に聞いたんだ。」


…嗚呼、成る程。言われてみれば確かに暦は四月一日。世間一般でいう『嘘をついても良い日』だ。という事は、先ほどの台詞はもしかして、いやもしかしなくても、嘘?


「そっか、嘘か。…なんだ、本気にしちゃってたよ。」
「ごめん、ごめんね。」
「いいのよ、別に。」


大丈夫。嘘だとわかったら、落ち着いてきた。そう言うと、彼女は良かった、と呟いた。ん?でも待てよ、「大嫌い」が嘘だったのなら、つまり越の言いたかった事とは。


「…えっと、越?大胆だね。」
「今更、だと思う。抱きしめてる時点で。」
「それもそっか。じゃあ越、私もね。」


越の手をやんわりと離し、私は近くのベッドにもたれかかった。「越の事、大嫌い。」そう言って笑うと、彼女は嬉しそうに…だけど少し、微妙な笑顔を浮かべた。「嘘は…いけないね。」「そうだね。」そんな会話を交わして、笑いあった。今日は折角の休日なんだから、もっともっと楽しまないとね。



プワソン・ダヴリルの弊害















Poisson d'avril。仏語版エイプリルフールらしいです。提供うぃき様。丁度今日は四月朔日なので題材にしてみましたが、書き終わってから…甘いのか?と。思いました。えっと、もっと糖分だばだばな越ちゃんご所望なら仰ってくださいね!書き直しますから!黒霧でした。相互ありがとうございましたー!


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