※百合注意! 軽やかな足音が追いかけてくる。 「せんぱーい。待ってくださいよー」 可愛らしい、声。同時に、温かい感触が手を包んだ。 「…何なの、湾ちゃん」 私はとうとう、くるりと振り向いて眉根を寄せた。かなりあからさまだとも思ったが、それでも湾ちゃんは気にならないのか、「やっとつかまえたー」とへらりと笑うだけだった。…この子強い。 先程からついてくる、この可愛らしい後輩は、何がしたいのかぎゅっと手を握ったまま私の隣に寄り添う。密着する彼女からは、お菓子みたいな甘い香りがした。 「どこ行くんですか?」 「生徒会室」 「じゃ、私も一緒に行って良いですか?」 「ただ、会長に書類貰いに行くだけよ」 それでも行きたいんですー、と湾ちゃんは言う。ならば断る理由もないので、私は別に良いけどと頷いた。 確か、今生徒会室にはアーサーに呼ばれた菊もいただろうか? ああ、だから彼女は私について来たがったのか。彼女はいつも菊と一緒にいる。ひょっとしたら彼を好きなのかもしれない。 一人納得する私にくっついて歩く湾ちゃん。柔らかい女の子の身体が、これでもかというくらいにぎゅーぎゅーと押しつけられて、歩きにくいことこの上なかった。 「遅かったな」 アーサーはセーシェルに淹れさせた紅茶を飲みながら、私に書類を手渡す。 どうやら、来月に差し迫った文化祭についての書類らしい。私はそれに軽く目を通しながら、アーサーの隣で穏やかに微笑む菊にちらりと視線を遣った。 実は菊がここにいる理由は不可解だったわけなのだが、その謎はすぐに解けた。 「文化祭、私が責任者を任されることになりましたので」 桐さん、お手伝い宜しくお願いしますね、と菊はやたら分厚いファイルを取り出して、さっきとはまた違った不穏な笑みを浮かべた。やわらかな筈なのに有無を言わさぬ威圧感。畜生、私を雑用としてこき使う気だな。そう直感した。 胸のうちに苦いものが広がる。私は断ろうとして口を開きかけ、しかし諦めてただ首を振った。どうせ、アーサーと菊のタッグに私などが適うわけもないのである。 が、口を噤んだ私とは反対に、唐突に隣の湾ちゃんが声を上げた。 「菊さん、私も先輩のお手伝いします」 紅花の花飾りを揺らし、湾ちゃんはそう申し出る。 私も驚いたが菊はもっと驚いたらしく、珍しく一瞬返事が遅れた。 その隙に、失礼しました、と湾ちゃんは私の手を引いて生徒会室から退室した。 「湾ちゃん、言っとくけど文化祭の手伝いなんてただの雑用だよ。湾ちゃんだってそれなりに忙しいでしょう」 だから良いよ、と私は言う。目の前の、華奢な少女を忙殺するのは気が引けるのだ。 湾ちゃんは、大きな黒瞳で私を見た。そうして口元が、ふっと笑みを形作る。 「先輩と一緒にいられるなら、それくらい何でもないですよー」 可愛らしく、大輪の花の笑顔。 それがあまりにも華やかで綺麗で、思わず馬鹿みたいに見惚れた。この子、こんなに可愛い娘だったっけ? 「いや、でも菊の心証とか考えてるなら、遠慮せず菊のところに行けば良いんだよ」 慌てて言うも、湾ちゃんはきょとんとしただけだった。「いやですね、違いますよ」私が大好きなのは桐先輩だから一緒にやりたいんです、と湾ちゃんは背伸びして、私に触れるだけのキスをした。 目を丸くする私に、文化祭、頑張りましょうね、と甘い声で言う。本当に、どこまでも砂糖菓子のような少女だと思った。 (You are lollipop girl!) 白雲様から頂きました!湾ちゃんの可愛さに全私が瀕死状態。ありがとうございます! |