「なまえ…」 「あら、どうしたの?ナターリヤ。」 貴女が泣いているなんて、珍しい。そう付け加えると、彼女は目を細めた。 暗く濁ったコーヒーを口に運びながら、私はナターリヤの話を聞く。どうやら、イヴァンと喧嘩したらしい。 「…兄さんが、なまえ達に近づくなって。」 「あらまあ、横暴ね。」 なんて独占欲の強い人なのかしら、と心の隅で思いつつ相槌を打った。彼女が自分の事を好きなのを知っておきながらいつも突き放しているのに、こんな時だけ近くに居て欲しいだなんて。しかしそんな事をされても、ナターリヤは決してイヴァンの事を嫌わない。なんて、羨ましいのだろう。 「私…せっかくなまえと仲よくなれたのに、離れたくなんてないわ。」 「私もよ、ナターリヤ。」 「だけど、そうしなくては兄さんを失ってしまう。」 彼女の思考で言うなれば、友情、愛情、どっちを取るか…という所。そう、所詮その程度。どんなにプレゼントしても、どんなに愛を囁いても、私は彼女にとっては只の友達でしかない。 「…話し合ってみてはいかが?喧嘩してから、貴女達は会話をしていないんでしょう?」 「ええ。でも、兄さんは私の話を聞いてくれるかしら。」 「大丈夫よナターリヤ。だって相手は、貴女のお兄様よ?ちゃんと説得すれば、納得してくれるわよ。」 「…そうね、ありがとう。なまえ、大好き。」 「私もよ、ナターリヤ。」 笑顔で私の元から去ってゆくナターリヤ。大好き、か。いつもならその言葉は嬉しいはずなのに、今日は何か胸にぽっかりと穴が開いたような感覚が私を襲った。気分を紛らわすように私はコーヒーを飲み込む。ほろ苦い味がして、私は思わず泣きそうになった。 ダークブルーに沈む |