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はー。恋って難しい。
好きな人を好きだと言って何が悪いんだろうとは思うけれど、そんな個人の感情だけではどうにもならないのが恋愛なんだそうだ。
好きあってキスをして一緒にいられるだけでいいのに、世間はそんな怠惰な恋心は許さないのだ。モラルの欠如だなんて、正直、明日の朝ご飯よりどうだっていいのにね。
私と湾ちゃんはお互いがお互いのことを好きなんだと思う。子供心の憧れを恋と錯覚してしまうものでも、友情のことでもない。愛って奴だ。
でも、湾ちゃんは同性を好きになるということに対して踏ん切りがつけられないみたい。
それもそうかな、と思うのは、私だって少しは迷ったからだ。湾ちゃんって立派なレディーなんだもん。適当な人生を送っている私だって、他人の気持ちを考えると甘いことなんて言っていられない。私の考え方ひとつで、湾ちゃんの人生が変わってしまうこともあるのだから。
反対はされたことがない。耀も香も私達の関係に気づいていないからだ。日頃なんだかんだで兄面している耀が気づかないだなんて変な話だけれど、それくらい私と彼女の関係は自然で摂理に叶っていているように見えているのだ。私も湾ちゃんも、嘘は上手だから。


「お腹すいたねー、なまえちゃん」
「そうだねえ。ぺこぺこ」


「お昼時だから混んでるかもしれないけど、どこかお店に寄ってみる?」彼女と手を繋ぎながらコンクリートを踏みしめる私は、ぼんやりと空を見ている。
さっきまで眩しいくらいに晴れ晴れとした景色を見せてくれていた大空は、いつの間にやら雲で隠れてしまっていた。そういえば今日ってあんまり天気が良くないんだったなあ、テレビでやってたっけ。
ふっと視線を隣の彼女の方へとやると、湾ちゃんは首を傾げながらうんうん唸っている。かーわい。


「食べたいけど、家に帰ったらせんせーがなんか作ってると思うよ」
「あーそういえば玄関でそんな事言ってた気するね」
「だから我慢!」


そうは言いつつ湾ちゃんの視線は近くの屋台に注がれている。ちょうど今作っているところなんだろう、肉まんのいい匂いがこちらまで漂ってきた。
「う」小さく声を漏らす湾ちゃん。さっきまで店内を歩き回っていたんだし、お腹がすくのも無理はない。それにこんなに美味しそうな匂い、我慢しろっていう方が無理だ。
案の定湾ちゃんはちらりと此方に視線をやって、物欲しそうな目で見つめてくる。子供っぽいなあ。


「前言撤回?」
「前言撤回!」





「美味しいなー」
「美味しいねー」


私はカレーまんを、湾ちゃんは肉まんを購入し、歩きながら口に運ぶ。ちょっと混んでたけど、寒空の下待ったかいがあったというものだ。料金サービスもしてくれたし、量もそんなに多くないので耀の作ってくれたご飯も入るだろう。万々歳。
丁度横断歩道まで来たから、二人とも足を止めた。此処の信号は長いから、立ち止まっていると風が頬にぴしゃりと当たって少し辛い。
いち早く平らげた湾ちゃんが、指をぺろりと舐めながら私に声をかけてくる。


「ねえなまえちゃん」
「なあに?」
「私ね、なまえちゃんとこうしてるのってすごく楽しい。心がぽかぽかするの」
「なんなの、突然」


くすくすと笑い、彼女から視線を外す。目の前を車がびゅんびゅんと通り過ぎていくのを、じいっと眺めた。カレーまん美味しいなあ。
私だって湾ちゃんとこうしているのすごく楽しいよ、そう告げると、彼女がにへらと笑ったような気がした。


「だからね、幾ら私が女の子でなまえちゃんも女の子だからって、関係ないと思うの」
「そう?」
「そう。好きだったら、性別なんて関係ないのよ」


正にその通り!心の中で拍手を送る。皆が皆湾ちゃんみたいに優しかったらいいのにね。そうしたら皆幸せになれるのに。
「でも、いいの?迷ってたじゃない」そう問う私に、「いいの!だってなまえちゃんといると、こんなに嬉しいんだもん」彼女はそう答えた。


「いやーでもこれから大変だよ?あの耀を説き伏せなきゃいけないし。つらー」
「つらー。うふふっ、でも頑張るよー!最悪私となまえちゃんが幸せならそれでよしよー」
「ですよねー!」


信号が青になり、私達は再び歩く。長い長い家路はさっきまで億劫に思えていたけれど、今は早く帰りたいと心がせかしてくるのだ。


「湾ちゃん、あいつになんて言ってやろっか」
「そうだねー。好きな人が出来ました!かな」
「んじゃー私もそうしよーっと」


この天真爛漫な笑みは私だけのもので、こればっかりは兄にだって譲れない。
恋ってやっぱり難しいけど、好きになること事態はとっても簡単な事なのだ。
だって私は初めて彼女を会った時から惚れてしまったし、湾ちゃんもそうなんだから。大事なのはお互いが好きあっているかで、周りに認められるかどうかなんて二の次でいいんじゃないかな。
だって恋って、主役は私達でしょ?




ヒロインは私とこの子!



(ねえなまえちゃん)
(ん?)
(あそこの屋台のサンドイッチ…)
(…まだ食べるの?)





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