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マフラーをぐるぐると巻いて冬の冷たさを遮断する。
寒いのは嫌いだ、私の言葉に、彼は薄く微笑って頷いた。
ロシアの極寒は私にはとても耐え切れない、だから、私は当初、彼の家に行こうなどとは思っていなかった。
それでも、彼が電話越しにあんなに懇願するものだから、仕方なく、ここまで赴いて来たのだ。
本当なら、今頃は遥か南の島のキラキラと輝く海を眺めていられたのに。
しかし、まあ、彼の言葉に反対する程、私は彼の事を嫌ってはいないのだし、折角過ごせるのなら、彼が楽しいと思えることをしよう、そう決めていたのだから、結局は、なんてことないのだ。


「それで、どこに向かっているのかしら」


私の言葉に、彼は家だよ、と短く答えた。
聞かなくても、道程を見れば目的地なんて分かりきっているけれど、何かを喋っていないと、凍え死んでしまいそうだから、なんてことない会話を続けようと口を動かす。


「そういえば、貴方の姉は元気かしら?」
「姉さんとは最近会っていないけど、元気だと思う」
「そう。久々に、彼女のパイを食べたいわ」
「今日はいないと思うけど、明日会いに行ったらどう?きっと喜んで出迎えてくれるよ」


それは光栄だ。だけれど、私はそのつもりはなかった。
この休暇は彼と過ごす為に取った物なのだから。予定を狂わせることはしたくない。
道行く人々に押し流されないよう、隣の彼を見失わないよう歩く。車を使わず、徒歩で彼の家まで行きたいと提案したのは私だった。寒いけど、いいの?と聞く彼に笑顔で頷いたのを、記憶している。
家につき、彼が大きな扉を開けるのを横目でちらりと見つめる。
こんなに寒いのに、彼が私をロシアに呼んだ理由が分からなかった。私が寒いのが嫌いということを知っているし、彼自身、寒さは好きではないはずだったのに。
「ねえ、何かあるの?」私の言葉に、彼は少し首を傾げた。長い廊下を歩きながら、会話でやり過ごす。


「何かって?」
「私をここに呼んだ理由。貴方の家なら、何度も来たのに」
「もう分かるから」


私がせっかちなのを彼は知っていると思うのだけれど。
彼の話では、妹さんは買い物に出かけているそうだ。道理で、出迎えがないと思った。
彼女も交えてたくさんお話をしよう。そんな事を思いながら、私は居間へと足を踏み入れた。


「…わっ」


頬を温かい風が包む。
目の前にあったのは大きな暖炉で、赤々とした炎が煌々と燃えていた。
もしかして、彼が私に見せたかったのはこの暖炉だったのだろうか。
前に来た時はなかったはずだ。マフラーをはずしながら、私は彼の方を見た。


「これは?」
「見れば分かるけど、暖炉。譲ってもらったんだ」
「へえ、温かいわね」
「うん。いつもは南の方へ行っていたけど、たまには、ここで過ごすのも悪くないでしょ?」


そうね、と頷いて、上着を脱いだ。こんな物を着ていたら、逆に暑くなってしまう。



「それじゃあ、紅茶を用意しましょう。私、ケーキを作ってきたの」
「ふふ、分かったよ」
「愛してるわ、イヴァン」
「分かりきった事言わなくてもいいよ、なまえ」


背伸びをして頬にキスする。
さあて。あの子が帰ってくるまでに支度を終わらせないと。あの子も、私と同じくせっかちな子だから。










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