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(超年長ヒロインと年下越さん)



越ちゃんの可愛い寝顔を見て癒される私。いつもは肩肘張っている彼女も、私の前ではこうして幼い少女でいてくれる。私はそれを嬉しく思うし、同時に若い彼女に憧れも抱いてみたり。まあ、外見でいえばそう違いはないのだけれど。さらさらの黒い髪に指を通すと、くすぐったかったのか越ちゃんは「んん」とうなってまぶたを開いた。とろんとしたおめめと視線が交わる。「ねえさま…」「ん?」あーっもう寝ぼけた越ちゃんってば可愛いんだから!そりゃあもちろんいつもの彼女も可愛いけれど、寝起きの子供のような彼女も可愛らしい。私は彼女のお姉ちゃんではないけれど、でも、それくらい越ちゃんを愛しく思う。


「…はっ!?」
「ふふ、おはよう越ちゃん」


ようやく意識が覚醒したらしい越ちゃんは、ばっと飛び起きて頭をがしがしと掻いた。


「おはようなまえさ…じゃない!そうじゃなくて!なんで私がなまえさんの膝枕で!」
「あら、貴女が誘ってきたんじゃない。『寝てもいーい?ねえさまぁ』って」
「そんなことは言っていないし『誘って』という言葉を使うのはやめて!」


羞恥による頬の赤らみ、そんなに恥ずかしかったのだろうか。でも、彼女は確かに私に膝枕をせがんだ。よほど疲れていたのか、そこらへんの記憶は抜けているらしかった。それとも、わざとかな?


「酷いわー越ちゃん。小さい頃は可愛かったんだけどなあ」
「っなまえさん!まだそんな昔の…!」


私が取り出した越ちゃんの幼少期の絵を見て彼女は声を荒げる。高名な絵師に描かせたそれは細部までとても美しい。ああもう、可愛いなあ越ちゃんったら!しかしそのつかの間の癒しも本人にぶん取られてしまう。


「ああっ酷い越ちゃん!お婆さんの唯一の楽しみを!」
「どこがお婆さんですか!外見年齢は私と変わらないくせに!」
「やーね、お世辞?なまえ嬉しいっ」
「きーっ!」


珍しく取り乱す越ちゃんは猿のような声をあげて絵巻を私に投げ返した。軽々受け取りありがとう、とゆっくり微笑む。そうしてそれをまた開き、はあ、と感嘆の息をついた。


「あの頃の越ちゃんは私をいつも『ねえさまっ』って言って追いかけてきてくれたのになあ」
「…ボケましたか、私はそんなこと…」
「言っていないとは言わせないわよ?」


現に彼女は覚えている。だって今も、頬を赤らめているのだし。ふふ、と微笑むと越ちゃんは「私は…もう貴女を姉さんとは見てはいませんから」「あら、どうして?」「…」そこで辛そうに押し黙ると、越ちゃんはふっと体の力を抜いて私のベッドに身体を預けた。柔らかい布団にすうと埋まる。先ほどのような静けさを、部屋は取り戻した。外の鳥の声、人の声、なにもなんにも聞こえない。


「私は、貴女のことが好きです」
「私も好き」
「愛しています」
「私も愛してる」
「それなら、どうして抱きしめさせてくれないんですか!」


寝転んだまま彼女は激昂する。


「愛してる、好き、そんな言葉はもう聞き飽きました!私は貴女を好いています!接吻をしたい、抱きしめたい、愛し合いたい!それなのに貴女は…貴女は!」


詞を、かみ締める。織物の糸をとくようにするすると、つるつると。私は越ちゃんを愛しているし、越ちゃんは私を愛している。でもそれは、どういうことなの?違いがあるの?私は彼女を愛しているわ。越ちゃんは私を愛しているわ。


「今の関係を壊したくないと言えば、越ちゃんには嘘ととれるのかしら?」
「関係なんて、とっくに崩れています」
「そうね、でも私は、貴女の姉でありたいの」


在りし日の越を抱きしめる。幼くて、無垢で、私を姉様と慕ってくれていた越を。


「…私の恋敵は、『私』…ということですか」


返事はしない。今声を発せば、彼女に飲み込まれてしまうと思ったからだ。「ごめんね、越ちゃんは、私の大切な妹だから」ぽつり呟く。


「私は、妹じゃありません」
「だから、だから、…私は、貴女を愛したいのです」
「なまえさんに愛されたいです」


ぼろぼろこぼれる涙を拭ったら私は偽善者なんだろうか。それでも、私には笑う以外の手段は残されていない。「ごめんねえ」「貴女にあげる愛は、『膝枕をして、頭を撫でてあげる』程度のものなの」ごめんねえ、嘘つきで。貴女への想いを隠した私で、ごめんねえ。ごめんねえ、泣かせてしまって。私も貴女を愛しているわ。だけど私は貴女を妹だと主張してやまないのよ。










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