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(百合)


セーシェルの柔らかい頬をぷにぷにと突くと、彼女は擽ったそうに私の手を振りほどいた。行き場のない手が空をさまよう。「なにするんですかあ」心なしか膨れっ面の彼女はそんな表情でも愛らしく、すこし羨ましいと考えてしまう。こんな彼女を我が物にしているイギリス。いいなあずるいなあ、私も欲しいなあ。自分でも、子供みたいだとは思った。


「セーシェル、私のものになるつもりはない?」


欲望が強いのには、充分自覚している。セーシェルはまゆをひそめて「私はものじゃありませんよ」と尤もな事を言って退けた。ああ、残念。セーシェルが私のものであればそれこそ、美しい装飾が施されたドレスを身に纏わせ、金色の鳥かごにしまっておけるというのに。ぞくり、と体を悪寒が走ったのだろうか顔を青くさせて、セーシェルが私を見た。「今とんでもなく最悪なこと考えませんでした?」「そんなつもりはないよ」ほんとーですかあ、と顔をしかめつつも、彼女は自国の青くきらめく水へと体をすべらせに行った。


どんなに姫様のように幽閉させようとも、こうして肌を露出させ太陽の下で輝くよりは素晴らしいとは思えない。つまりは私の元にいるよりこの微妙な距離感のままでいたほうがセーシェルは美しく咲き誇ることができて、私は彼女を咲かせる養分にはなりえない。悲しいけれどすくいようのない現実だった。ふ、とセーシェルはこちらに振り向き、持っていたしましま模様のビーチボールをパラソルの下にいる私に投げてよこした。ふわふわゆらめくそれをキャッチすると、彼女は向日葵のように笑った。


「なまえのものにはなれないけれど、なまえのそばにはいてあげてもいいですよ!」


次はなまえが投げる番ですよ!とはしゃいで海のほうへ再び駆けてゆく彼女を、私はどんな表情で見つめていたのだろう。わからないけれど、気がつくと私はビーチボールを手に取り彼女を追いかけていた。頭にのせた麦藁帽子が風に流され飛んでいった。


おはなのそだてかた
(大事に想ってそばにいること!)
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