(リヒがバッシュに会う前の話) (微百合) 彼女はいつも笑っていた。悲しい時でも、それは変わらなかった。そして今も、彼女は天使のように微笑んでいる。 「…大丈夫?リヒ。」 「今は、何とか…。」 なまえさんに分け与えてもらった、乾いたパンを小さく千切り口にいれる。恐慌のせいで、家もボロボロになってしまった。なまえさんも同じで、私と彼女とで何とか飢えを凌いでいる。でもそれも長くは続かないでしょう。 彼女の自慢だった腰まである髪は、今は無残に切り取られている。それでもなまえさんは、今も笑みを絶やさない。私の為なのだろうか。心配をさせない為に、笑ってくれているのだろうか。 「…私達、もう駄目なのでしょうか。」 「…なんで?」 「だって、もう、私達は…。」 そこまで言って、私は口を噤んだ。悲しそうな顔をしたなまえさんがいたからだ。彼女は首を振って、私に目をあわせた。 「そんな事言わないで?諦めたら駄目。」 「ですが…。」 「駄目。」 彼女は頑なに、それを拒んだ。 「約束よ。私達はこの恐慌を乗り切って、また、気持ちの良い朝を向かえるの。」 「え…?」 「守れるよね?」 縋るように言うなまえさんに、私は頷く事しか出来なかった。 絶対だからね、と聞こえた (その時だけ私は) (彼女の弱さを見た気がしたのだ) |