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(死ネタ)




早朝。通常まだ皆が眠っているその時間。僕となまえさんだけは外にいた。


「本当に、…行くんですか。」


なまえさんが、イヴァンさんの元からいなくなる。それは彼に言われたからではなく、なまえさん自身が決めた事。そりゃあそうだ。あのイヴァンさんが、なまえさんを遠くに行かせるなんて事絶対にない。彼は、彼女の事を溺愛しているのだから。

彼女は白い頬を寒さからかほんのりと薄く赤らめ、「ごめんね」と言った。彼女曰く、『このままでは、私も彼も、駄目になる』。そんな事はないと…反論は出来なかった。何しろイヴァンさんは、僕やトーリス、ライヴィスがなまえさんに近づいただけで気を悪くするのだ。独占欲。それはそれは狂おしいくらいに強い、感情。


「考え直してはいただけませんか?」
「…無理だね。」


彼女は笑う。儚げな、今にも消えてしまいそうな笑み。彼女はイヴァンの元にいた今までで、そんな表情をした事は一度だってなかった。彼に心配をさせないように。彼の機嫌を損ね、僕等に被害が及ばないように。


そして、なまえさんは大きな鞄から一枚の封筒を出した。分厚い封筒。不思議そうにそれを見る僕に気づいて、なまえさんは苦笑した。「これ、イヴァンへの手紙。」そう言って僕に手渡す。ずっしりと重い。


「イヴァンが起きたら、これ渡して。…大丈夫、これ読んだら、彼はもう君達に私の事で危害を加えないだろうから。」
「…そうですか。ありがとうございます。」


違う、そんな事を思っているんじゃない。僕は、自分に降りかかる暴力に怯えているんじゃない。そうじゃなくて。


「なまえさん、」
「何?」
「好き、です。」


僕はずっと、好きだった。イヴァンさんの隣で天使のように微笑む彼女の事が。悪戯っぽく笑う彼女の事が。


「私も好きだよ。」


なまえさんはそうとだけ言い、荷物を持ち歩いていった。彼女の姿はまるで溶けたように消える。寒い冬の日、僕は枯れ果てる程に泣いた。


送葬
(貴女の姿を目に焼き付けて、)




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