「●●ちゃん、明日デートしない?」

「?何故だ?」

「…え、なにゆえ…?」



ちょっと飯行かない?的な、もちろんそんな軽いノリだった。

けど心底不思議そうな顔で何故なんて聞き返されたら、若干傷つく。
なんだいこの子は私と出掛けるという行為そのものに疑問を持つのかい。
それとも何か、今さっきの言葉に下心でも見え隠れしてた?

…いやいやさすがに、それはない。私嘘上手だもん。
…あ、いや端から下心なんてないけどね!



「明日、久しぶりに真選組の非番もらえたんだよね。
 結構今までも、ってゆうか今現在進行形で仕事サボってはいるけど、やっぱり休みって大事だし。
 私だってちょっとは羽休めがしたいと思うわけだけど一人は寂しいから、●●ちゃんに一緒にいてほしいなって。」

「ああ、そうゆうことなら構わない。どこへなりとも付き合おう」



…『そうゆうことなら』って、なんだろう。
何を、何を考えてたの●●ちゃん。一体何を警戒していたの?

お姉ちゃんちょっと泣きそうだ。



「うん、じゃあ、明日ね。お家迎えに行くから」

「わかった」



いつも通りの無表情で頷いてくれた●●ちゃん。
笑顔の方が可愛いってのは知ってるけど、無表情だって十分可愛いから良しとする。
そして、綺麗な黒髪頭をわしゃわしゃと撫でて、困った顔をする彼女にさらに満足してから別れた。

さぁ、明日はどこへ行こう。
私は可愛い子供たちが傍にいれば、屯所だろうがドブだろうが何だっていいんだけど、
やっぱり私だけじゃなく、彼女にも楽しんでもらいたいからね。



「完璧に計画を練ってみせるぜっ!」



期待しててね●●ちゃん!






『二兎を追う者は一兎をも獲ず…?』







「おお、神楽も一緒か」

「そうネ!ついさっき公園で○○に拉致られてきたアル!」

「神楽ちゃんそれ人聞き悪いー酢昆布に釣られてきただけでしょー」



神楽ちゃんにそう文句を言いながら、酢昆布を渡す。
もう顔はニヤケが止まらない。

何、何なのさこの状況は。
●●ちゃんとのデート取り付けられたと思ったら、神楽ちゃんまで当日ゲットだよ。


ああ…目の保養。



「あ…そういえば●●ちゃんにおめかししてきてねって言うの忘れてた。畜生私だけバッチリきめてきちゃったよ」

「そういえば…今日の○○殿は変わった格好をしているな。とゆうか最初誰だかわからなかった」

「ふはははは、男女カップルに見えるようにという私の配慮なのだよ。どう?似合う?」

「う、うむ」

「○○は洋服が似合うネ!最初誰だかわかんなかったケド!」

「ありがとー神楽ちゃん♪」



そう、今日の私は、男物服着こなしてきちゃいました。
しかも黒髪のヅラかぶってシークレットブーツまで履くという徹底ぶり。

どうよこの力の入り具合!
さらっと誘ったデートに私がどんだけ懸けてるかわかるっしょ!
なんかつい神楽ちゃん呼んじゃったせいでデートとかもうなんか違う感じになったけど…
これはこれでいいから良し!


ところで二人は、どっか行きたいとことかある?
と、笑顔で二人に尋ねてみる。
シークレットブーツのせいで、いつもより二人の位置が低い。
…なんかいいな。



「私は特に…神楽は?」

「お腹いっぱい食べられるとこ!」

「神楽ちゃん…朝ごはん食べさせてもらえなかったのかい?よし、じゃあ今からあのクルクル頭を殺しに行こうか」

「食べたアル!いっぱい食べさせてもらえたアル!大丈夫アル!」

「そう、ならいいんだけど」



どうやら二人ともご希望はないらしい。

なら、私が用意してたプランで万事オッケーだな。
そうと決まれば、いそいそと。懐から小さなパンフレットを取り出して、二人に差し出した。



「じゃあ、ここいこっか」

「「水族館?」」

「そ、今日オープンしたばっかりの」



お昼御飯も中のレストランで食べられるし、みんなへのお土産も買えるよ。


そう言うと、二人は一枚のパンフレットを仲良く覗きこみながら大きく頷いた。
神楽ちゃんはレストランの料理の写真に釘付けだし、●●ちゃんも、
心なしかウキウキした様子で水槽の写真を眺めている。(かなりフィルターはかかってると思うけど)
やっぱり二人とも、まだまだ子供で可愛いなぁ。



「○○!水族館って、この水槽の魚その場でサバくところアル!?」

「どんな勘違い!?違う、違うよ!」

「ではこの魚たちを皆で捕獲…「違う!」



なんてこった。
この子供たち、水族館に行ったことがない…だと…!?

…後で保護者共(クルクル天パとド級シスコン兄貴)にお説教だ。



「…じゃあ、いこっか」



先行き不安になってきたところで、零れそうになる溜息を噛み殺しながら二人の手を取った。
神楽ちゃんは、いつものことだと笑顔で握り返してくれる。
馬鹿力で。ちょっと骨がミシッてなる。普通に痛い。でも嬉しい。

でも●●ちゃんは、慣れていないのか不思議そうな顔をして固まっている。
その様子に、私は苦笑した。



「手繋ぐの、いや?」

「…いや、いやでは…ない」



ならよかった。

そう言って笑うと、●●ちゃんは少し照れてしまったようで、せっかくの可愛らしい顔を伏せてしまう。
嬉しいな。普段から表情の少ない子だから、余計、嬉しいな。

さっきまでの不安なんて吹き飛んだ。


やっぱり、すっごく楽しみ。







◇◆◇







「なんでぃ、『デート行ってくるね!』なんて嬉々として出掛けるもんだから後付いてきたってぇのに。
 ただのガキのお守りじゃねぇかぃ」

「…格好からして今日は普通のデートじゃねぇってわかりきってただろうが…」



茂みに隠れて双眼鏡を覗きながらチッと舌打ちをする隣の馬鹿を見て、俺は溜息をつく。

何で俺は…またこんなことをしてんだ。



「ったく、さっさと帰るぞ」

「ほぉ、水族館に行くみたいでさぁ。せっかく来たんでこのままつけてみやしょう」

「何の為に」



こいつも何で前回で懲りねぇ。
あん時の怪我人は万事屋だけだったが、さすがに二度目にもなると俺たちにだってあのとび蹴りが飛んでくるぞ。
大体あいつがガキの守りしてるとこ尾行してどうすんだ…

帰りてぇ。激しく帰りてぇ。
だがこうゆう時の調子づいたこいつを娑婆に放っておいて、治安が乱されなかったためしがない。

…帰れねぇよ。



「土方さん、心配でねぇんですかぃ?ほら、今の○○と●●、なんだかお似合いじゃあありやせんかぃ?」

「…どっちかってぇと○○のヤローがロリコン犯罪者としての一線をとうとう越えてしまうかもしれない事の方が心配だな」

「…てわけで尾行続行でさぁ」




それから今日オープンだとかいう水族館に行き、(俺ら男同士の二人組とかマジねぇわ。めっさ変な目で見られたわ)
この魚を食べようだの何だの騒ぎ、捕獲にいそしもうとしながら騒ぎ、
団体(三人しかいねぇが)行動を乱しまくりのガキ共に悪戦苦闘する○○を後ろから眺め、
俺はマジで何をしてるんだろう、と何度か自問自答をした。

そして案の定、レストランに入ったら入ったでまたひと騒ぎだ。



「○○!!この魚、さっきの水槽で泳いでたのアル!」

「うん、たぶん違うけど、うん、何でもいいや」

「そんな…!先ほどまであんなに元気に泳いでいた者たちが…!?」

「いや●●ちゃん、だから、違うってば」

「食べれない!私には、とても…」

「だから違うってば!」



離れた席でも、十分その声が聞こえてくる。
この様子だと、今日○○が変態犯罪者としての一歩を踏み出すことはなさそうだ。



「結局○○のヤツ、何にもしやせんねぇ。つまんねぇ」

「おま、アイツを犯罪者にしてぇのかよ」

「じゃねぇと何のための尾行でぃ。犯罪を犯した○○をしょっぴくためでしょう」

「犯罪を未然に防ぐための尾行に決まってんだろ!?」



言った後に、しまった、と口を抑える。
大きな声を出し過ぎた。
こりゃ、さすがに…


  ―――ビクッ!!!



「…あーあ、土方さんのせいで○○にバレちまった」

「………」



バレた。目ぇ合った。すっごい怖かった。



「…帰ろう」

「ここまで来て何言ってんでぃ。ほら土方さん、○○のヤツ、見なかったことにするみたいでさぁ」

「お前はわからなかったのか!?○○のあの殺気が!殺される!」

「ご愁傷様でさぁ」

「お前もだよ!」



しかも○○だけじゃない、槍ムスメの方もチラっとこっち見てた。
アレは完全バレてる。バレバレの尾行なんて馬鹿丸出しじゃねぇか。

そう言っても、総悟は引かない。
帰って仕事に引き戻されるのがよっぽど嫌らしい。
…クソガキ。



それからはもう、堂々とあいつらの後を歩いた。

たまに○○に笑顔で会話を振られた。
チャイナに「男二人でこんなとこ来たアルか!?キモ!」って言われた。
泣きたくなった。
槍ムスメに「大丈夫、人それぞれでいいと思うぞ瞳孔マヨ殿」って言われた。
泣きたくなった。



「懲りないなぁ二人とも。前のはまだわかるけど、何で今日はつけてきたの」

「○○をしょっぴくため」

「お前の犯罪を防ぐため」

「…とにかく二人とも、帰ったらゆっくり話しよっか」



同じ水槽にも飽きることなくへばりついていたガキたち。
水族館を出てからの帰り道、朝日が眩しかったはずの空はすっかり暮れ、赤く染まっている。
○○は昼にはここを出る予定でそれからのプランも綿密に練っていたらしいが、全部パーなようだ。
けれど彼女は、でも二人が楽しめたみたいだからいいや、と言って笑った。


仲良く手を繋いだ彼女たちは、長い影を作りながら俺たちの前を歩く。
チャイナ娘はもちろんのこと、普段無表情で無愛想な槍ムスメも、どこか雰囲気がやわらかい。

○○が犯罪者の一歩を、なんて…馬鹿げた考えだった。
こいつはなんだかんだ、子供が笑っていればそれでいいのだ。
超えちゃいけない一線に踏み込むなんてこと…



「じゃあ●●ちゃん神楽ちゃん、このままディナーもいっちゃう?」

「どこ行くアルか!?」

「あのね、あのホテルのルームサービスが美味しくって…」

「レストランではなく、ルームサービスなのだな」

「そうそう。超おすすめだから、さっそくレッツゴ「行かせるかぁあああ!!!」ふべがぁ!」

「何ガキ共ホテル連れ込もうとしてんの!?おま、え、何!?」

「チッ、邪魔すんなよ十四郎ー」

「お前自分ではただの子供好き≠セって言い張ってたよな!?なんだ!?設定どこいった!?」

「あはーなんかもう、いいかなって」

「開き直るな!!!!!」



いつの間にか色欲に埋め尽くされたらしい頭部をもう一度ぶん殴って地面に沈めた。

その様子を眺めながら、総悟は呆れた顔をする。
そして、



「…犯罪、未然に防げやしたね」



状況をよくわかってないガキ二人を見て言った。



「んあ?神楽?」

「銀ちゃん!」

「…そいつらと遊んでたのか?」

「うん!○○に水族館に連れてってもらったネ!」

「そりゃよかったな」



茶色い紙袋…パチンコの景品を抱えた万事屋と遭遇。



「俺も今日は大当たりだ。ほら、酢昆布もあるぞ」

「ほんとアルか!○○!私やっぱり今日はもう帰るネ!バイバイ!」

「へ、か、神楽ちゃん…!」

「また誘ってアル!」



そう言って手を振って、チャイナは万事屋の元へと駆けて行った。

一方、地面に伏せたままの○○。
「銀時の馬鹿野郎…!」と、地面に拳をぶつけている。



「…○○殿…そう落ち込まないでくれ。私は一緒に――」

「あれ?●●?」

「!兄上!」

「○○さんとのデートは終わったんだね、おかえり。
 じゃあ一緒に帰ろうか。今さっき、夕飯の材料を買ってきたんだ」

「っそ、そうですか…!」



困ったように、槍ムスメはチラリと○○を見下ろす。
○○殿の誘いの方が先だったが…しかし兄上のお誘いを断るなど…!
とかって感じの心の葛藤がありありと見てとれる。
それを見上げて、遠くで微笑んでる槍ムスメの兄貴を見て、○○は大きく溜息を吐いた。

そしてようやく起き上って、体についた土ぼこりをぱんぱんと払う。
それから、未だ心の葛藤を続けている槍ムスメに向かって笑う。



「じゃあディナーは、また今度、一緒にいこっか」

「か、かたじけない!」

「はは、大袈裟な。じゃあまたね、ばいばい」

「ああ、さようなら!」



…○○(重度のロリコン。常に立ち位置は犯罪スレスレライン)が少しだけ、成長した様子。

手を振りながら、兄の元へ走って行く槍ムスメを眺める後姿には、何とも言い難い哀愁が漂っている。
それを見て「…あほらし」と呟きながら、総悟は欠伸を噛み殺していた。


そして槍ムスメが兄貴の傍に辿り着いてから、○○は叫んだ。



「…シスコン兄貴ー!今度、あんたも●●ちゃん水族館連れてってやってよー!
 ●●ちゃん、何回も『兄上も誘えばよかった』って言ってたんだから!私とのデートなのに!」

「!○○殿…!」

「…ええ、わかりました!今日は●●がお世話になりました○○さん!」



兄貴の返事を聞いて、○○はまた大きく手を振る。
槍ムスメも兄貴の方も、大きく振り返していた。

それから俺は、ゆっくりと○○に歩み寄る。
仕方ねぇから、俺が晩飯でも奢ってやることにしようと思った。



「…げ」

「…『げ』ってなにさ」

「お前…何号泣してんだ」

「だってぇぇぇ」



みんなヒドいよヒドいよ、結局私ほっぽってっちゃうんだもん!
みんなそんなに保護者が好きかコノヤロー!
あーあ、さっさと二人とも兄離れしないかな、本当はお姉ちゃんが欲しかった!とか言い出さないかな。
私準備万端で待ってるのに…


と、涙ボロボロと流しながら流暢にしゃべるそいつの口は、どうやら泣くという行為とは比例せずに存在しているらしい。
俺は呆れて、これでもかというほど大きなため息をついた。
総悟は○○のその顔をパシャパシャと携帯で連写してる。



「…ったく」

「ふぉ!?」



ゴシゴシと袖で涙を拭っていた手を取って、引っ張る。
それから勝手に歩き出すと、○○#は戸惑いながらもそのままついてきた。



「…飯行くぞ、飯」

「え、ホテルのルームサービス!?」

「土方さん…弱ってるところに付け込もうなんざ、見損ないやした」

「行くかボケぇ!!」




それから行った居酒屋で○○は飲んだくれ、めずらしく泣き上戸と化していた。
けれど立ち直りなんて早いもんで。

次の日、二日酔いがどうのこうの言いながらも槍ムスメの姿を見つけると、



「●●ちゃぁん!会いたかったぁぁああ!!!」



と叫びながら槍ムスメにタックルをかましていた。



なんか別に、そうゆう感じでいいらしい。









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〜あとがき〜
遅くなってすんませんっしたぁぁああ!!(スライディング土下座

人のために小説を書くことが初めてなもんで、もうそれはそれは悪戦苦闘いたしました…
●●ちゃん目線でも書きたかったのですが、もろもろの都合からあえなく断念orz
他にも色々と何度もボツって、書きなおして、結局こんなのができました。

でも何かもう途中で何書こうとしてたのか忘れました(ぉぃ
しかも無駄に長い長い。
もう書きたいことが多すぎて。詰め込み過ぎて。や、これでも一応かなり削ったんですが…;

あとお兄様のお名前が登場してなくてすみませんorz
ウチのサイトは一話一話の名前変換はできないのですが、お兄様の名前変換を表で設定するわけにもいかず…
デフォルト表記させてもらおうかとも思ったのですが、自重しましたorz
…とゆうことで、「シスコン兄貴」なんて呼んじゃってごめんなさいorz
お兄様大好きです、愛してます。もっと言えば、シスコンなお兄様が大好きです←


相変わらずのグダグダ文章ですが、マエストロ狐狗狸様に捧げさせていただきます!



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