あかいろ
言いたい衝動

「ユメ!今度の試合、応援に来てほしいんだ!」
「はいはい、いいよーいつ?」

幼馴染のひなちゃんの言葉に私は迷うことも無く二つ返事で頷いた。
ぱああっと顔を輝かせる彼は本当にかわいいと思う。愛い奴め。
ひなちゃんの試合を見たのは中学の最初で最後のあの試合一回きりだった。
まぁ結果は悲惨なもので、見ている側としてもいろいろ辛いものがあった試合だったけど…今回はそれを払拭してくれるんだろうなと信じている。

「俺絶対かっこよくスパイク決めるから!見ててよ!」
「はいはい」

そして試合当日、私はひなちゃんを舐めてたなと思い知らされた。
1年生なんてそもそも試合出させてもらえるのかという私の疑問もなんのその。スタメンで現れたひなちゃんのプレーはよくわかんないけどとにかくすごかった。
私はバレーのことなんて正直よくわかってない。とりあえずボールを相手のコートに叩きつければいいんだな、ぐらいの知識だ。それをひなちゃんは何度も成功させていた。私にかっこよさをアピールするには一番わかりやすい方法。ここまで見せ付けられたんじゃ、試合の後にはかっこよかったよって言ってアイス奢ってあげるぐらいのことはしなきゃならないな。

試合は烏野の勝利だった。
整列とかその他もろもろが終わるとひなちゃんは私に大きく手を振る。
チームメイトの人たちや、私の周りの応援席の人たちまで私を見た。少し気恥ずかしいけど、やっぱりうれしかったので私も手を振り返す。
さっきまでコートで輝いてたあのかっこいい選手が私に手を振ってる。と、誰と張り合ったわけでもない優越感に浸る私を知ったら彼はどう思うだろう。

「なぁなぁ、俺」
「かっこよかったよ。私あの10番の幼馴染ですって周りに自慢したいぐらいかっこよかった」

おそらく「かっこよかった?」と自ら尋ねようとしてきたひなちゃんがそれを言い切る前に正直な感想を伝えてあげた。
照れくさそうに笑う彼をもうかわいいとは思えない。何しててもかっこいい、なんて身内贔屓だろうか。

「お疲れ様、今日はもう帰れるの?」

ロクに汗も拭かずに私の元へ走ってきていたひなちゃんに、持ってきていたタオルを差し出す。
「ありがと」とそれを受け取って首もとの汗を拭く彼を見るとドキッとした。
もう何年も一緒に育ってきた幼馴染なのに、なんだか別人のように感じる。

「ううん、もう1試合ある」
「そっか、じゃあ引き続き応援してるから、がんばって」
「ん!」

太陽みたいな笑顔を残して、ひなちゃんは当然のように私のタオルを手にしたまま去ろうとした。
まぁいいんだけどさ、今返されたって若干困るし。
だけど彼は「あ!」と声を上げて振り返った。握ったままのタオルの存在に気づいたか。

「あのさ、」
「うん」
「俺次もスパイクいっぱい打つから!」
「うん」
「ユメにもっとかっこいいって思ってもらえるようにいっぱい打つから!」
「うん」
「見ててよ!」
「はいはい」

彼は結局タオルを持ったまま行った。
今で十分かっこいいのにこれ以上かっこよくなられたらたぶんドキドキし過ぎて傍に寄れなくなるな。これ以上になるとマジでジャニーズとかの域に達する。あああああ握手してもらえませんか!とか口走る気がする。

試合が始まれば宣言通りひなちゃんはたくさんスパイクを打った。休憩になるとジュースを飲みながら私のタオルで汗を拭いていて、私はより傍で応援できているような気分になってうれしかった。
そして試合はまたしても烏野の勝利。整列等いろいろを終えてひなちゃんはまたこちらを見る。さっきのように手を振るんだろうと思って私も手を準備しかけた。
けど彼はあろうことか、

「かっこよかった!?」

と大声で聞いてきた。
あの子はおそらくアドレナリンの出すぎでおかしくなっている。
今度はチームメイトのみなさんも周りのみなさんもぎょっとした様子でひなちゃんと私を見た。
さすがにこれは恥ずかしい。
だけど応援しているだけでアドレナリンの分泌がはんぱなかった私はやけくそ感覚で叫んでしまった。


「結婚してほしいぐらいかっこよかった!」


ばかだ。


「じゃあ結婚しよう!」


叫び返してきたひなちゃんも大概ばかだ。
でもあと3年待って!と続けて叫ぶ彼に私は「はいはい」と答えて笑った。
ああこれが世に聞くバカップルってやつか。





(日向、おま、何やってんだ…!?)
(何ってプロポーズ!影山にも紹介してやろうか、俺の未来のお嫁さん!)

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