「船を出せ」
帰り着くなり、俺は船員にそう告げた。
ほろ酔い気分でうとうとしているシャチを蹴り起こす。
ベポが「アイアイ、キャプ・・・」といつもの声を止めた。
「キャプテンその人誰?」
「女だ」
お前には残念だが人間のメスだ。
そう言うとベポは不思議そうに首を捻る。
「キャプテンその人どうするの?」
「・・・さァな」
ぐったりとした表情で気を失っている女を抱き上げて船へ戻ると
やはり妙な目で見られた。
ペンギンが咎めるような目で俺を見てきやがったから、
俺がやったんじゃねェ。と一言告げ、医務室に入る。
女は、小さい犬か何かのように軽かった。
痣だらけの体は細く、血色も悪い。栄養失調を起こしている。
女をベッドに寝かせると、怪我の治療を始めた。
内出血を起こしている箇所が多く、縛られていたような箇所も目立つ。
傷口には膿が溜まり、化膿しているところもあった。
「商品というよりも、奴隷だな」
あの店は、よほどこいつを手放したくなかったらしい。
抗生物質と栄養剤の点滴の針を刺す。
薄い皮に抵抗無く入った針を固定して体の横に添わせるように寝かせた。
爪に、申し訳程度のマニキュアが塗られている。
それも剥がれかかって、むしろみすぼらしさを強調するかのようだ。
意外にも、子宮の方に異常は見られなかった。
やはり売り物だけにそっちの扱いは丁寧に行われたということか?
妊娠している、もしくはした形跡もない。
まぁ、さしずめ避妊薬でも飲まされていたんだろう。
「キャプテン、船を出しますよ!!」
「あァ」
扉の向こうから声がして、軽い返事を一つ返す。
海の上、船の中。
心地好い揺れを足元から感じる。
ゴウンゴウンと音が響く。
今日の海は穏やかだ。
水面から身を出し始めた朝日が、新しい朝を告げた。
壊れかけの人形
(修復師の見せ所)
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