人形が歌っている。


一瞬そう錯覚するほど、女の作りは美しかった。

ただその白い肌に傷さえなければ。

どれだけ隠そうとすぐに分かる。
衣装から覗く無数の傷、痣。
それさえも、どこか艶かしく思えたが。


回りの奴は脂ぎった体を揺すりながら汚ェ笑みを浮かべている。


足を進めて、一番前の席に腰を下ろした。
生臭いソファーの匂いに一瞬顔を歪め、すぐにその女に視線をやった。


女は視線を空中に向けたまま、静かに歌を歌っている。
決して華やかな衣装とはいかないがそれなりに着飾った、それでいて女が見劣りするわけでもない。

たまに揺れる髪が、光を受けて輝いていた。





「おい」


近くに居た男を呼ぶ。
目の釣り上がった青白い肌の男がふらふらと側へ来てはぁ、と間抜けな声を出した。




「あいつを買うなら、いくらだ」

「[シェア]ですか?
冗談はやめてください。シェアは売れませんよ」

「あ?」

「看板娘ですから、易々売るわけにはいきませんよ」

「・・・そうか」



終始へらへらと笑っていた男を払うと、さっさと奥へ引っ込んでいった。


再び、シェアと呼ばれた女に目を向ける。
薄い色素の髪が地につきそうなほど伸びている。
そいつが体を傾けると髪は地を這った。

左右で違う目の色。
ガラス玉をはめ込まれたかのようなその瞳。
薄く動く胸元も青白く、それでも割けばきっと赤色に染まるのだろうか。

俺は引き込まれるように、女を眺める。


女の口が静かに閉じた。
生気も感じられない顔は、人工的な粉で無理矢理に紅く色づいていた。

女は少し頭を垂れて後ろへ下がる。





「おい、オーナー!!俺はあの女を買うぞ!!」

「またまたご冗談を。
シェアには値段が付けれません。
・・・どうしても買うとおっしゃるなら、
そうだなァ・・・億は頂かないと、割にあいませんよ。
こちらとしては」

「な・・・!!無茶を言うな!!」



小太りの男がさっきカウンターにいた男と交渉している。
ナリからして、地主か企業家か。

客の男がひじ掛けに拳をたたき付けた音がした。


あの女につく金が億?
それはこの店が売り物を無くした損額を踏まえての値段か。
それとも、
それ以上の何かが、あの女にあるのだろうか。




「・・・・・・・・・」


ガタ、とソファーから立ち上がる。
ホールの入口に向かい、カーテンで隠された別の入口へ足を延ばした。






「お客様!そちらは関係者の控室ですので、お手洗いでしたらご案内しますよ」

「悪いな」




ゴト。



「なっ!?なんっ!!」



体が別れてパーツになった男が小さく悲鳴をあげる。
その口にひきちぎったカーテンを突っ込んで、笑った。



「あいつは俺が貰っていく」







ジャイアニズムと笑えばいい
(欲しいと思った。だから奪うんだ)







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