「チッ」


降ってきやがった。
白くて冷たいだけでなんの利益もねぇ雪が。
雪が降るのは、ここが冬島だから仕方の無いことだが。


水気を帯びてみぞれのようになった雪を踏む。
足を進めると足跡が出来たが、またすぐに何もなかったように消し去る。


時間はとっくに深夜か、それぐらいだろう。
島にある形だけの繁華街が放つ明るさが感覚をおかしくさせそうだ。

鼻がおかしくなりそうな香水と酒の臭い。
嗅ぎ慣れた匂いといっても、無償に気に入らない臭いだ。
勝手に盛り上がる船員共は置いて、一滴の酒も飲まずに酒場を出たのが少し前の話。
シャチが馬鹿みたいに煽って潰れかけてたが、自業自得だ。

飲んでもねェのに、胸焼けみたいな感覚にたまらず眉間に皺が寄る。


街を歩くと何度も腕を引かれては絡ませられた。
内容なんて店に来ないかといったものだ。
無言で女を撒く内に、気づけば賑わいから離れていた。



上陸前から気に入らない島だとは思っていた。
しかし今の倉庫状況から考えても文句は言えない。


ログはもう十分だ。
明日にでも出航させる。
これ以上ここに滞在しても無駄足でしかない。
海軍が来ないとは言い切れないしな。


ざりざりと自分の足音が聞こえる。
壊れかけたベンチが視界に入り、腰を下ろした。
がたがたと、今にも壊れそうな音がする。
傍に刀を置いて俺は溜息を吐いた。
俺は視線を上へ向け、黒く腫れぼったい雲を眺める。



津々と雪が降る。
冷たい雪が頬をおちて、
耳にも冷たさが広がった。






「      」





不意に聞こえてきたのはさっきまでと違う声。
それは歌に聞こえる。
俺は腰をあげ、耳を頼りに足をまた進めた。





人を阻むように生えた木々を避けながら、次第にはっきり聞こえる声に向かって進んだ。



「・・・なんだ?」



街外れ、路地裏をさらに深く進んで林を抜けたところ。

そこには今にも崩れそうな看板に汚い字で店名らしきものが書かれた古い屋敷があった。

見た目の割に中は賑わっているらしい。
建物自身、頑丈に造られているようだった。






「・・・お一人で?」

「あぁ」

「3000ベリーです」

「待て。ここはなんだ」



愛想よさげに汚く笑う男が金を、と言わんばかりに出した手を無視して問いかける。
男はなおも笑いながら「へェ」と賎しく答えた。



「面白いショーの見れる店ですよ」

「なんだ。男のストリップだったらお断りだぜ」

「とんでもない!
あっしにだってそんなァ趣味はございませんよ」



へへへっとより高い声で笑う男は小さい目をさらに潰すように笑った。



「まぁ、いわば見世物小屋です。
どうぞごゆっくり」



カウンターに3000ベリーを置き中へ促されるまま入る。
知ってる、生臭い血やアルコールの匂いがする。


僅かな人だかりの出来た小さなホール。
割と立派なステージの上に、
その女は居た。






古屋敷の歌姫
(歓迎しないその瞳)







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