とんとんとん。たんたんたん。
ごとごと。がたん。

色々な音が、混沌とした意識の中に潜り込んで来る。
黒い、暗い意識がぼんやり覚醒して視界が明るくなった。

一番に視界に入ったのは、見慣れない天井。



「・・・ここは、どこ?」


いつもの暗くてかび臭くて血の臭いとあの独特の臭いが無い。
アルコールと潮の匂い。
それに、この白いシーツは?

腕に違和感を感じて、
見てみれば細い管が吊された液体の入った袋に繋がっている。
不思議と体が温かい。
いつもと違って指がはっきり動く。


「・・・屋敷は」


それでも、体は痛い。
無理に体を起こして部屋を見回す。
良くわからない機械やシーツ、同じように液体の入った袋があったり、包帯やガーゼがある。

明かりがちかちかと点滅した。


「ここ、どこなの?」


袋から、液体が消え一滴が落ちたとき
慌ただしく扉は開かれた。
そこに立っていたのはキャスケット帽を目深に被った男の人で


「あ!起きてんじゃん!!
点滴の確認に来たんだけど調度よかった!!」

「あ、あのっ」

「船長呼んで来るから待っててな!」

「あ・・・、」


話を聞く前に言ってしまった。
ここはどこか、それだけでも聞こうと思ったのに。

私はいつも通り、あの屋敷に居てお客様の相手をするはずなのに。
傷痕には丁寧に包帯が巻かれているし、それに体がすっきりしてる。ほのかにアルコールの清潔そうな匂いがする。






「ずいぶん長く寝てくれたな」


聞き覚えのある声だった。


「・・・あ、なた」


見覚えのある人だった。


「あのときの、・・・?」

「名前は教えてやったはずだが」


彼はひどく不機嫌そうに眉を寄せる。
またいつものように殴られるのだろうか。体が強張るのを感じた。


「トラファルガー・ローだ。
覚えろ」


名前と思われる単語をさらりと言われても、今の私にはそれを整理する理解力が追いついてない。


「・・・わたし」


彼は私の腕に繋がった管を丁寧に取り払った。
その時に目に入った両手首の痣。
ちょうど、手錠があった辺り。
青紫色になっているが、そこには私を縛る錠がない。


「ここは俺の船だ」

「ふね・・・」

「ハートの海賊団。
知らねェ奴が居るなんてな」

「・・・ごめんなさい」


聞き覚えの無い名前。
海賊という人たちは知っていても、海賊団まで把握していない。
だってあの部屋に居るかぎり情報なんて必要なかったから。


「俺の船に連れてきた。
言っただろ。お前を奪うと」

「・・・・・・うばう」


あの時の映像がじわじわと脳裏に浮かぶ。
そうだ、確かに彼は私を奪うと言った。


「お前を誘拐したんだよ。[シェア]」


名前として呼ばれていたものを呼ばれる。
彼の声がなんども部屋に響いて、私は理解しようとするけれど拙い頭はぼんやり、まるで他人事のようにさえ思えていて。


「わた、し」


ただはっきりと分かるのは


「・・・・・・いきてる」


明るく照らされた光りの下で、まだ私が生きているという事実だった。





生存確認
(まだ温かい体に、脈打つ心臓)







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