「やーん、テツ君すっごく似合う!」



テツヤくんはふわふわだった。レースにフリルにリボンにお花。どこもかしこも真っ白でふわふわだった。まるでお人形さんみたいっと笑うさつきちゃんに、テツヤくんはだまってじっと彼女を見ているだけだった。それはとてもお人形らしい仕草だったけれど、本物のお人形は視線をすこしずらすように作られているらしいから、やっぱりテツヤくんは人間だった。



「青峰君と違ってテツ君はもとが可愛いからね。飾りがいがあるよ!」



ナチュラルカラーのファンデーションに、さくら色のチーク。目元にはホワイトのハイライトを入れて、まぶたはシンプルにブラウン系のグラデーション。黒のアイラインを入れるのも忘れない。仕上げは唇にほんのりピンクを落として。



「かっわいい!本当に可愛いよ、女の子にしか見えないもん!」



さつきちゃんはとっても嬉しそうだった。飾られているあいだ、テツヤくんは座っていたベッドにおいてあったクマの耳をいじくっていた。こっちももう少し変えたいなー、とふわふわになった髪の毛をさわるさつきちゃんに、テツヤくんは言った。



「桃井さん」


「なあに?テツ君」



このときになって初めてテツヤくんは気づいた。クマの耳がとれかかっていた。恨めしそうにクマがこっちを見ていたけど、かまわずにいじり続けた。



「桃井さん。僕は、女の子じゃありません」



ハラリと前髪がおちた。そしてさつきちゃんの目にみるみるうちに水がたまったかと思うと、それはまるでダムが決壊したかのような勢いをもって落下しだした。警報を鳴らすような、叫びにも似た泣き声が六畳半の部屋をうめつくす。



泣き崩れるさつきちゃんはかわいかった。顔をおおう両の手には傷なんてひとつもなくて、コーラルピンクに染めた爪先がきらきら輝いている。そりゃあテツヤくんだってかわいかったけれど、どちらかと言えばさつきちゃんの方がかわいかった。パーの形にひらいた手のひらはマメやら何やらで凸凹だ。ぶにぶにの部分をつねったら血がもれてきて、やっぱりさつきちゃんのコーラルピンクの方綺麗だった。



「なんで、テツ君は、女の子じゃないの?」



そんなのは神様にしかわからないとか適当に答えればよかったのだけれど、残念ながらテツヤくんは無神論者だったし、生物もあんまり得意ではなかったので何も言えなかった。それでもさつきちゃんの泣き声をずっと聞いているのも辛かったので、適当に答えた。確率の問題じゃないですか。



テツヤくんがそう言ったら、さつきちゃんはよりいっそう大きな声で泣きはじめた。お気に入りのスカートが濡れるのも気にしなかった。このままだと、たまっていく水で溺れてしまいそうだ。さつきちゃんを抱きしめてあげたかったけど、テツヤくんは女の子ではないからできなかった。とてもふわふわなのに、テツヤくんは女の子にはなれなかったのだ。だけど普通の男の子でもなかったから、かわいいさつきちゃんを押し倒すこともできなかった。できなかった。しなかった。できなかった。



お人形さんみたいに動かないテツヤくんを見て、さつきちゃんは耳のほとんどとれたクマを投げつけて、大好き、とまた泣いたのだった。





幸せになれる
(かもしれない)
確率
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3/4









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黒子っちは青峰あたりとできあがってる設定

桃黒も好きなのです
桃井ちゃん可愛いよ^^
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