「涼太くん、涼太くん。これとこれだったらどっちがかわいいと思いますか?」

「…どっちでもいいんじゃないっスか」

「よくないですよ。全く、今度涼太くんとデートする時用に買うんですからね、ちゃんと選んでください」



涼太くんだって、恋人にはかわいいかっこうしてほしいでしょう?お化粧なんかしなくたって白くてすべすべな頬をちょこっとばかし膨らませたこの顔を、きっと世の中の多くの男共はかわいいと認識して褒め称えるに違いないのだ。でも、俺はとりあえずそのかわいい顔の持ち主に渾身のジャーマンスープレックスでも喰らわせてやりたいと思う。それは彼の手に握られていたものがフリルたっぷりのスカートであったこともそうだが、一番の理由は、店の外できゃあきゃあ騒ぐ女の子たちに見せつけるようにして彼の口が俺の口に突進してきたからである。ちょ、しかもディープかよばかああああ!!






スカートは女の子がはくものです。異論は絶対に認めません。
そして、彼は別に俺の恋人ではありません。






黒子テツヤくんと言うのは、くんがつくだけあって立派な男の子であって、そして俺の幼なじみである。ちゃんとアレもついてる男の子である。大事なことなので二回言いました。しかし服屋のお姉さんは彼のことを完全に女の子だと思い込んでいるらしく、チェックやらリボンやらのワンピースを彼に勧めている。確かにそれは可愛いと思った。いや、彼ではなくてワンピースの話ね。



「でも、こないだ涼太くんがデートしてた子って確か森ガールでしたよね。だったらこっちのロングスカートの方が好みですか?」

「なんで黒子っちがそのこと知ってるのかな。俺、一言も言ってなかったと記憶してるんだけども」

「僕と涼太くんは以心伝心ですから」



え、ちょっとなにその怖いごまかし方。黒子っち(ああコレは彼に対する俺の呼び方)の一家が俺ん家の隣に引っ越してきたのは、確か互いに小学校の低学年の時だったと記憶している。そしてその時はまだ、彼は男の子だったと記憶している。間違った。男の子のかっこうをしていたと記憶している。

なのに、現在俺を買い物に付き合わせているのはスカートをはいた男の子である。かわいい顔は昔から変わっていないが、何らかの化学変化だとか革命だとかが起こったせいで、彼は今スカートをはいているのである。去年もスカートだった。一昨年もスカートだった。あれ、彼はいつからスカートなんだっけ?



「涼太くん、ほらお店を出ましょう」

「え、買い物はいいんスか?」

「君が呆けている間に買いましたよ。なかなかのマヌケ面でした。でも、僕はそんな君も好きですよ。怒ってる君も、笑ってる君も、お漏らしして泣く小四の君も、かっこよく木から飛び降りようとして足を骨折した中二の君も、ちゃんと全部が大好きです」

「どさくさに紛れて人の黒歴史を暴露するのやめて!」



ほら、お姉さんが噴き出すのをこらえてプルプルしてるじゃないか!黒子っちの手をつかんで逃げるように店を飛び出したら「愛の逃避行ですか、ドキドキしちゃいますね」などと言われたから音速の勢いで手を離した。なのに当の幼なじみは、照れなくていいのに、なんてほざきながら俺の腕に痛いくらいにしっかりと絡みついてきた(やばいやばいマジで痛いっつーの!)



「あんなに強く手を握ってくるなんて、涼太くんってばそんなに僕を離したくないんですか。大丈夫ですよ、心配しなくたって僕の身も心も細胞の一つ一つまで全て残らず涼太くんのものですから」

「うんごめん別にいらない」

「あ、ほら涼太くん、あそこのカフェ見てください。カップル限定でケーキが無料らしいですよ」

「うんそうだね。カップル限定だから俺らは無料じゃないね」

「ちょうどお腹も空いてきましたし食べに行きましょう」

「ねぇ、頼むから自分の保険証の性別欄を見てみて。気づくから、己の過ちに気づくから」

「保険証わすれました」



今度は俺が黒子っちに腕をつかまれてカフェまで連行される羽目になった。いや、こんな細い手くらい簡単に振り解けるけどね!だけどほら、黒子っちは今は見た目だけは完璧な女の子なわけで、ここでもし俺が無理やりな態度をとったりでもすれば、えー何あの男ひどーい!でも超イケメーン!みたいな目を周囲から向けられるに違いないのだ。見た目だけならば、この幼なじみは男の庇護欲をそそるような美少女なんだから。みんな、この変態に騙されているのだ。実際は、190もある男を平気で引きずるような男なんだぞ。



「えーとお客様、こちらは彼女様でよろしいでしょうか?」

「え?あ、え?」

「ちゃんとカップルかどうか一応確認しているんだそうです。早く肯定してください」



いや、カップルじゃないからね俺ら。ただの幼なじみだからね。君にいたっては女の子ですらないからね。それに引き換え、目の前のウエイトレスは完璧に女の子だった。後ろでお団子に束ねた栗色の髪と、黒いアイラインの引かれた大きな目がとっても魅力的だ(でも、黒子っちの目の方がずっと大きかった)まさかこの子まで女装した男などというわけはあるまい。もしそうだったら俺は泣く。そんな世界は悲しすぎる。そして俺がかわいそうすぎる。



「あのー、申し訳ないんスけど俺ら別にカップルとかじゃふむっ?!」



デジャヴだ。違う、デジャヴっていうのは確か、まだ経験したことがないのに経験したかのように感じることだったはずだ。そうなるとこれはデジャヴじゃない。だって、これけっこう最近に経験したもん。なんだなんだなんなんだ。だから、なんだってこの子はこんなにテクニシャンなんだ。俺だってなかなかに経験豊富なんだぞ。赤信号だ。酸欠で、苦しくて、ふらふらする。



「っぷは!」

「…ふう」

「ちょ、ちょっと黒子っちなにしてしてんの!」

「これでわかっていただけましたか?店員さん」



僕と彼はカップルですよ。顔を茹でダコみたいに真っ赤にさせたウエイトレスは、「お、お好きな席へどうぞー!」とだけ言って全力疾走でキッチンまで走り去ってしまった。ざわざわと周囲が騒がしい。わかる。だってすっごく目線が痛い。わかる。わかりたくないけどわかる。カフェ中の客たちみんなが今、俺たちを見つめていることに。



「涼太くん、あそこの窓際の席なんてどうですか?きっと、外の人たちからすっごくラブラブな恋人同士に見えると思います」

「くーろーこーっちいいいい!!」



だからディープはやめろって言ったじゃないっスか!!しかもここ公共の場だよわかってる?!じゃあ、今日お家に帰ったらたっぷりしてあげますね、なんて憎らしいくらいかわいい顔で言う幼なじみに、遠慮と羞恥心というものを全力で叩きつけてやりたいと心の底から思った。








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ど う し て こ う な っ た !

黒子っち
涼太くんが大好きな涼太くんの幼なじみ。涼太くんが女の子にモテモテなことにコンプレックスをこじらせた結果女装少年となってしまったという、頭は悪くないんだけども頭が弱い男の子。女装はするが別に心も女の子なわけではなく、涼太くんがいない時は普通に男の子の格好もしてたりする。

涼太くん
黒子っちのことが好きかもしれない黒子っちの幼なじみ。女装をし続ける幼なじみを心から変態だと思っているが、それが自分ひとりのためだと思うと心から悪い気もしないというとっても難解な性格の持ち主。

もしかしたら続きを書くかもしれないですだって書いててすっごく楽しかっt(やめとけ)

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