『僕、黄瀬くんが大好きです』


「俺もっスよ黒子っち!」


『顔が格好良いだけじゃなくて、優しいところとか、男らしいところとか、全てが好きです』


「俺も俺も!黒子っちのことなら全部好きっス!」


『僕なんかじゃ、君に釣り合わないかもしれませんが…』


「そんなことないっス!黒子っちの可愛さは宇宙一っス!」


『でも…それでも、僕には君しかいないんです…!』


「黒子っち…そんなに、俺のこと…」


『黄瀬くん……今夜、君の家に泊めて下さい。好きにして…構いませんから』


「!!ももももちろんOKっス!ウェルカムっス!俺に全てを委ねて黒ブハアッ!」






似次元の話




とりあえず、目の前の金髪頭を全力でひっぱたいてやった。机の上に置いてあった、彼が表紙を務める某有名ファッション雑誌で。急に訪れた衝撃のために、彼は盛大に前にずっこけた。あ、コンセント抜けた。


「何してるんですか、黄瀬くん」


殴られた頭をさすりながらカーペットとお友達になっていた男は、僕が声をかけた途端にガバリと飛び起きた。そして僕の姿をその瞳にとらえた瞬間、先ほどまでの痛みなどサッパリ忘れたかのように、それはそれは嬉しそうな顔に切り替わった。復活早いですね。


「黒子っち!黒子っちじゃないっスか!なんでここにいるんスか!?いや悪い意味じゃないっス、むしろ超良い意味っス!は!ま、まさか画面の中から出てきてくれたんじゃ…イダァッ!」

「一発じゃそのイカレた頭には効果がなかったようですね。僕はただ、先日君に貸した本を返してもらいに来ただけです。急に他の人にも貸すことになりまして。ていうか君、何で電話にでないんですか。そのせいで、わざわざ家まで来なきゃいけなくなったじゃありませんか。全くとんだ無駄足です。あ、そうだ。まださっきの僕の問いに答えてませんよね。早く答えてください。何をしていたんですか、黄瀬くん?」

「黒子っちの生声……ハァハァ」

「三秒以内に答えないと今度は角を眼球に突き刺しますよ。さーん、にー…」

「ま、まって黒子っち!答えるっスから!ゲーム、ゲームしてたんスよ!」

「それは見ればわかります。問題はそのゲームの内容です。何なんですか、これは」


床に直に置かれたゲーム機の横、何やら制服を着た男の子がたくさん映ったパッケージを手に取る。表紙をよく見てみると、『ドキきゅん★禁断秘密の花園3〜魅惑の花嫁たち〜』という何ともセンスの微塵も感じられない題名が目に飛び込んできた。というか3って。シリーズ物なのか。そんなに人気あるのか、これ。


「それはBLゲームでもコアなファンの多い、通称『ドキきゅんシリーズ』っス!すごいんスよ、これの完成度といったらもう!!」


何をそんなに興奮しているのか、この男は。別に君が変態だとか何だとかいうことはどうでもいい(今更すぎるから)だけど、さっきまで画面に映って彼に話しかけていた、あれは…


「見て、黒子っち!これ!この子!!黒子っちに似てないっスか!?」


いつの間にか僕が手放したパッケージを持った黄瀬くんは、そう言いながら表紙に映る多くの男の子の中から一人を指さした。確かにその少年は、水色のショート髪とぐりぐりの瞳、白い肌、大人しそうな雰囲気と、どことなく僕に似て……いなくもない。いなくもないが……


「この子を見た瞬間、俺は無意識のうちに会計を済ませてたっス…!本当にすごいんスよ、このゲーム!名前とか声とかも自由に変えられるし、シチュエーションも豊富だし、そして何より主人公があえての攻めというこの素晴らしき逆転換によって、俺の夢見てた黒子っちとのラブラブ生活が現実のものに…」



ばきっ



「アアアアアア!!俺のドキきゅんが真っ二つうううううう!!」

「君の言っているそれは全くもって非現実です。頭大丈夫ですか?ああ大丈夫じゃありませんよね、当たり前のことを聞いてしまってすみません。君が二次元の住民になろうがどうなろうが知ったこっちゃないですが、いやむしろそのまま三次元から消えてほしいですが、僕を巻き込むのは止めてください。不快極まりないです」


彼が能弁を奮っている間に、ディスクを取り出し割らせていただいた。本当に、三次元から永久追放したいと思う。次元の狭間にでも陥って消滅してしまえ。


「黒子っちに何するんスか黒子っち!ここまで展開進めるのにどれだけ俺が苦労したか!!やっとお泊まりまでこぎつけたのにいいいいい!」

「黙れ変態」


この情けない泣き顔を彼のファンたちに見せてやりたい。きっと音速の勢いでみんな引いていくだろう。


「こ、これがなくなったら俺はこの先一体何でヌけばグアッハァ!」


三発目もクリーンヒット。角だったから凄く良い音がした。黄瀬くんは倒れたまま動かない。あれ、打ち所が悪かったでしょうか。まあいいか。



黄瀬くんを床に沈めた僕は、鬼の居ぬ間に…違う、変態の居ぬ間に立ち去ることにした。本棚から目的の本を探しだすことを忘れることなく。
部屋を出る前に一度彼の方を振り返った。ピクリとも動かない。死んだか。いっそ転生でもしてくればいい。


ふと、彼の足元に転がるパッケージが目に留まる。それを見た瞬間また苛つきが増してきて、ばんっと足で踏み壊しておいた。苛々する。本当に。



もう振り返ることはせず、ドアを開けた。

彼の匂いが、少し、薄まる。











「生意気なんですよ、二次元の分際で」






苛々、いらいら。


止まらないから、明日もう一発くらい黄瀬くんを殴ろうと思う。










(こっち向け、ばか)










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残念な黄瀬くんが大好きです。
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