「そろそろ行くか。……森田」
「はい、銀さん」


 次の仕事のための資料にじっくり目を通すと、それらを大きな封筒に几帳面に入れて銀二はソファーから立ち上がった。その後ろでずっと今か今かと様子をうかがっていた森田の名を呼ぶと、ふたり連れだって玄関へ向かう。


「報告楽しみにしてるよ」
「なに、お前らの集めた情報を無駄にはしねえさ」
「ヘマすんなよ、森田」
「大丈夫ですって」


 巽は煙草をふかしながら、安田は軽く手をふって出かける二人を見送った。今回の巽たちの役割は主に情報収集、船田は相手とのセッティングだ。これから相手のもとに案内する船田はともかく、情報さえ渡してしまえば巽と安田にもうすることはない。あとは成功の連絡を待つだけだ。そのおかげで、こんなビルの一室にふたりきり取り残される形になってしまった。

 閉まった扉を眺めながら、ソファーに体を預けた安田は懐から煙草を取り出す。ライターはどこに入れただろうかと服を探っていると、ライターが目の前に差し出された。


「ああ、悪ぃな」
「すっかり森田に銀さん取られちゃって、寂しい?」


 ちょうど顔を近づけてくわえた煙草に火をつけているときにそんな事を言われて、安田は薄く煙の上がり始めた煙草を取り落とすところだった。役目の終わったライターをポケットに滑り込ませると、巽は煙を吐き出した。空気に混ざって消えていく煙を眺めながら巽は苦笑する。


「安さんわかりやすいなあ」
「……そんな寂しそうな顔してたかね」
「割と」


 ちょうど考えていた事を言い当てられて、安田は居心地悪そうに頭をかいた。


「……自分の娘を嫁に出すような気分だ」
「それ銀さんに言ったら多分怒るぜ」
「……絶対言うなよ」


 頼むから、と顔をのぞき見てくる安田に巽ははいはいと笑った。ガラス製の灰皿に随分短くなった煙草を押しつけると、巽は立ちあがってぐっと伸びをする。


「ま、よかったよ、嫉妬じゃなくて」


 巽がそう言って安田を見下ろすと、言われた方の安田ははぁ、と眉をひそめた。


「嫉妬もクソもねえだろ」


 そう言って煙を吸い込む。そのあと何か言葉を紡ごうとしたようだが、少しの思案のあと結局安田は言葉の代わりに肺にためた白煙を吐き出した。その様子を見て巽はまた笑う。ビルから出ていく銀二たちが見えるであろうベランダに向かいながら、巽はもう一本煙草を取り出す。


「I NEED YOUとか、言ってくれてもいいんだけど」
「……馬鹿野郎」


 軽い音を立てる窓を開けると、丁度船田が運転する車が駐車場から出ていくところだった。外を眺めたまま今行ったよ、と安田に声をかけると、安田はソファに座ったままそうか、と気の抜けた言葉を返した。


「さて、俺たちは成功を祈ることにするかね、安さん」
「祈らんでも成功するだろうけどな」


 銀二たちを見送って満足した巽がソファーに戻って安田に目をやると、安田は何か言うつもりなのか薄く口を開けたまま固まっていた。聞き取れるか取れないかの声で、ずっとア、アイ、とどもっている。こりゃ聴きたい言葉を聞くには時間がかかりそうだな、と笑いながら巽は煙草の煙を吸い込んだ。






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