俺はいつも同じように暗部面をつけた。

俺の暗部面は狼を象っており暗部名は【銀狼】、火影様直々につけられた名前である。

俺のような銀髪は木の葉には一人ぐらいしかいないだろう……。

正直もう自分をばらしている様な名前ではあったが、気にはしていなかった。


畑 カカシ


それが俺の本当の名、変化をして顔を変えるでもなく、髪を変えるわけもなくただ面をつけて俺は暗部として動いていた。

先生が毎日毎日、父親に似たこの髪色を嫌がる俺に、飽きもせず「カカシ君の髪は綺麗だね」などと吐きそうになる台詞をニコニコというものだから、次第に気にしなくなって、ついには隠してはいけない気がして変化をする気もなくなってしまった。


もういまでは思い出となってしまったこの髪色の記憶…………


それに何よりその娘であるナマエが初対面の時真っ先に言った言葉、


『あんぶのにぃちゃんのかいのけ、すごぉくきえいだえ!(暗部の兄ちゃんの髪の毛、凄く綺麗だね!)』


その言葉が何故か少し嬉しくて、やっぱり先生の子だと思った。

そんなとき、ふと握られている手の力にが少し強くなった。

横下を見るとかつての恩師と同じ輝きを持つ金色の子の、先生と同じ、いや…それ以上かもしれない綺麗な青い瞳と目が合う。


「大丈夫だよ」


少し緊張した表情でこちらを見るナマエに、そんな陳腐な言葉しかかけられなかった。


───何が大丈夫だ…。


俺はそうとしか言えない自分を心の中で嘲笑った。

大丈夫なわけがない。

まだ2歳という幼い年齢で、たった5分とはいえあの視線を逃げ場がないところでずっと味合わなくてはいけないのだ。


憎しみ、軽蔑、嘲笑、恨み、怒り…………


もう言葉では伝えようがない人の暗く醜い感情の視線が一心にそそがれるのあの空間。

まるで「死ね」とでも言うかのように…自分の存在を全部否定するかのようなあの視線。

見ているだけでもおぞましいあの視線を………自分なら気が狂ってしまう。

だが俺はそんな不安げなナマエにこのまま付き添ってやることは許されていなかった。

去年までは許されていたが、あの封印の間からでることができたナマエは、交換条件として出されたナマエを護衛するためにおかれた暗部である俺を取り除き、一人で耐えるしかなくなった。

ただナマエを精神的に苦しめたいという、腐った大人達の自己満足のために。


俺は歯痒さと悔しさでどうにかなってしまいそうになりながら、サッと部屋から退出するしかなかった。


悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい……力が欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい


でも、それは今の青臭い俺ではまだまだ叶えられるはずもなく、俺は無力なのだと何度も何度も、心の中で自分を罵り続けた。


ほんの5分程度のことだったが、俺には酷く長く感じた。

上層部が次々と部屋から出てくる。

その度に聞こえてくる去年と同じように呟かれる言葉に、俺は思わず耳をふさぎたくなった。


「化物め」 

「何故アイツがまだ生きてる…」 

「始末しなくてわ……」 

「三代目は何を考えているのだ」 

「化物を未だ生かしているとわ…」

「まったくだ…」

「汚らわしい…消えてしまえばいいものを…」


相変わらずナマエの存在を全て否定するような言葉を止まることなく紡ぎ、表情に浮かぶ醜い感情を隠そうともしないご老人方様、それはあの5分間でもずっと呟かれ続けられていただろうに……

先生の子だと知っても、九尾とナマエは違うと分かっていながらも、それをすべて拒絶し認めない。

それなのに………


「ねぇあんぶのおにーちゃん、ナマエもうかえいたい!」


またあの眩しい笑顔で、何者にも屈しないその笑顔で駆け寄ってくるナマエ。

その姿に、心が切なく揺れ、締め付けられる。

その綺麗でそう、純粋無垢と言う言葉が似合うその笑みに苦しくなる。


───なぜ笑ってられるんだ……


その疑問と思いが、グルグルと胸の中に残って取れない。

いっそ……いっそ泣ないて泣いて、泣き喚いて、全てを吐き出してくれたらいいのに………

まだナマエは火影邸を出た事がないから、外、木の葉での事に耐え切れるのだろうか?

もう木の葉の全てと言っても過言では無いほど、里人はナマエを【化物】として見ている。

そう見ていない者なんて、もはや数えられる程しかいないだろう……。


「おにぃちゃんどうしたの?」

「なんでもないよ……」


黙り込んだ自分を心配してか、零れそうな大きな瞳が自分を覗き込む。

ナマエの手をなるべく優しく握って、俺たちはこの部屋から出て行った。


その時、ほんの一瞬だけ見えた深い深い傷痕………


驚きのあまり立ち止まった自分を、あの笑顔でまた、



「どうしたの?」



幼い子供の独特の高い声で、無垢な瞳と分かりやすい表情で、どうやったのか入念に隠された傷痕をまたその仕草で隠す。



───初めてその笑顔が、【偽物】ではないかと思った瞬間だった………






嘘、嘘、嘘、

(もしそれが【偽物】ならば、)
(俺はきっと、君の事を何も知らない…)




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