惨 半ば強制的に連絡先を交換させられた上に、どこから漏れたのか、私の住所まで調べあげられ、結局逃げようという素振りすらも出来なかった。 仕方なく、お酒と塩、水、その他個人的に必要なものを持ち、大人しく集合場所へと向かった。 時刻は9時を過ぎた頃。集まっているのは自分を合わせて総計8名。昼間にいた面子に加え、更に人が増えているようだった。 男が5人、女が自分を合わせて3人。この人数となると確かに二人では少し心許ない。 ここで、花宮さんはいるが、黛さんの姿が見当たらないことに気が付いた。 「(私を捕まえた張本人の癖に…っ!)」 「アンタさ、霊の気配には気付くのに俺の気配には気付かないんだな」 「うぎゃあ!?」 「うるさ…」 突然背後に立っていたのは、たった今あの野郎と憎しみを込めた人物、黛千尋本人だった。 昼間から思っていたが、この人は背後に立つのが好きなのだろうか。気が付くと背後にいる気がする。背後霊か。 「ちゃんと来たのは誉めといてやるよ」 「う、上から目線が非常に腹立たしい!」 「はいはい」 「黛さん、私確か今日会ったばっかりですよね?なんでそんな舐め腐った態度なんです!」 「おい花宮」 「まさかの無視!」 ただでさえ、知らない人だらけだと言うのに。今日会ったばかりとはいえ、まだ話したことがある黛さんと花宮さんを信じていたのに!この仕打ち! ……いや、昼間の時点でこの二人がクソなのはわかっていたことだった。むしろこの人達こそ信用してはならなかった。 軽率に着いていった昼間の自分を恨む。 「えーっとぉ〜、名字さん、だっけぇ〜?」 「はい?」 出来るだけ殺意を込めて黛さんと花宮さんを睨んでいると、先程まで賑やかに他の男共と話していた女性二人が私に話し掛けてきた。 そうだ、知らない人でも人類皆兄弟。話せばきっと意気投合するはず。 「あっ、そうです私が名字です」 「はじめまして名字さん昼間はご挨拶できなくてすいません」 「いえいえ、こちらこそ。あの時は私も、少し取り乱してましたし…」 「そうだよねぇ〜。いきなり連れてこられたんだもん。ビックリするよねぇ〜」 間延びした話し方をする、可愛らしい容姿の女の子。所謂オタサーの姫、といった格好だ。それからもう一人の、ものすごく早口で話す女性はお世辞にも可愛いとは呼べない容姿で、服装の趣向も真逆のこれまたマニアのような見た目の子。 「あのねぇ〜、日地野くるみって言うんだぁ〜。くるみって呼んでぇ〜」 「あたしは物部まりあです」 成る程、私はどうやらとんでもない魔境に来てしまったのかもしれない。既に頭が痛い。キャラが強すぎて、至って普通の、ちょっと幽霊視えるだけの名前ちゃんは霞みそう。 いやいやいや、人類皆兄弟だから。まぁ大丈夫。一回落ち着こう。 「え、えっと、私は名字名前です」 「じゃあ名前ちゃんって呼ぶねぇ〜!わぁ〜新しいお友だちが増えてくるみ嬉しいなぁ〜」 「あたしも新しいミステリーを追いかける仲間が増えたこと嬉しく思います女性はこのサークルあたしとくるみしかいないので女性の仲間がいるのは大変心強い是非今後ともこのサークルに入って仲良くしていただけると大変嬉しいですね。というわけでどうですか私達の仲間になりませんか?」 「え、えーっと…」 これは既に私、妖怪に出くわしていると言ってもいいのではないだろうか。さっきの言葉はもう撤回だ。 仲良くできない!兄弟になれそうにない! 「おおお!くるみちゃん、新しい子とお友だちになっちゃった感じィ?」 「女の子だけで話さないで俺らとも話そうや!」 「あ、ヒロくん。カナトくん」 今度はなんだ。ド金髪の随分チャラチャラしたのと、そこまでチャラチャラはしてないが、かといって大人しくもない賑やかそうなのが来た。天変地異か。 「あのねぇ〜、この子は名字名前ちゃんって言うんだってぇ〜」 「俺佐良井ヒロね!よろしく名前ちゃ〜ん」 「俺は澤木カナト。よろしくな!」 「あ、はい」 「昼間はまゆゆとまこちゃんと話してたからよく顔見えなかったけどさァ、近くで見ると名前ちゃん可愛いなァ」 「どう?今度俺とどっかデートでもいかね?」 「あ〜!くるみのこと忘れないでよぉ〜!」 「あははは!くるみちゃんヤキモチかよ!」 「もぉ〜!カナトくんのバカァ〜!」 なんだこの魔境。割りとマジな方で助けてほしい。いや、もう逃げよう。 「アッアッアッ…すいませ…はじめまして名字さん…」 「え、あ、はい」 「あ、すいませんコイツコミュ障で人と喋るの苦手なんすよ。意味わかんないっすよねドゥフフ」 「あ、はい、ウィッス」 「ぼぼぼぼ僕っ…ひ、仁見、…四郎…です…」 「あ、自分は二戸ケイジだお」 次はコミュ障とネラーか。 「名字名前デース。ヨロシクオネガイシマース…」 もう、どうにでもなれ。 (150107) |