弐 偶々出会ったその人は、黛さんと言う名前で現在四回生らしい。で、私はその黛さんに、あるサークルに誘われている。 「…ミステリー研究会?」 「そう、色々とあって協力してくれないかと思って」 「それに何故私が」 「前々から後輩が目付けてたんだよ。あんたと同じ課目取ってるやつで、花宮ってやついない?」 「え?花…うーん…」 「気持ち悪い猫被りの眉毛が変なやつ」 「あー…言われてみればいたかもしれないですね。猫被りはわからないですけど」 そう言えば先日から、講義中誰かに見られていたような気はしていた。過去に霊に見られていることはあったので、それかと思っていたが、どうやら違ったらしい。 「でもなんで私なんですか」 「視えてるから」 「私極力隠してたんですけど…」 「花宮はそういうのわかるらしい」 「はあ」 とまあ、淡々と返事をする黛さんの話がイマイチ理解が出来ないまま、そのサークルの場所に連れてこられたわけだが。 「おーっ!まゆゆー!」 「噂の子、連れてきたー?」 「結構美人な子じゃん!」 「お前そうやって口説くんじゃねーぞ!」 「お前らうるさい」 部屋に入るなり、随分賑やかなお出迎えをされた。というか、うるさい。 一言でバッサリ切られた人達はなにやら文句を言っているようだが、黛さんの言うことの方が尤もだ。 黛さんはそれを気に介さないといった様子で真っ直ぐと、奥の方でうるさそうに眉をしかめながら本を読む人物に近付いていった。自分もその人物の近くまで来たところで、ようやくそれが誰なのか理解。 「花宮、こいつだろ」 「…そうですね。ありがとうございます、黛さん」 「猫被んなよ気持ち悪い…」 「先輩に気を遣ってるんじゃないですか。…それで、そっち」 「あ、はい」 花宮さん、とやらが黛さんから此方へと視線を移し、無言で見つめてくる。とりあえず、会釈をしてから自己紹介だけしておいた。 「…名前はもういい。それよりアンタ、祓えんのか?」 「え?」 「あの辺にいるやつとか」 ダルそうに指し示したのは、ギャーギャーと騒ぐ人達の向こう側にいる、びしょ濡れの女性。世に言う霊。 「まあ、あれくらいならなんとかなりますけどー…」 一応、何度も引き摺られそうになったのだから、それなりの対処は出来る。あれはそれほど強くもないし、放っておいても自然と消えるだろう。 「…なら十分だな…」 「あの、私イマイチ状況が理解できてないんですが。なんですこの状況」 勝手に納得している花宮さん。それはいいが、そんなことより何故私がここに呼ばれたのかが問題だ。ことと次第によっちゃ、私は逃げる。 「…うちのサークル、ホラー系も含めてミステリーなんだよ。で、あのアホ共、ミステリーを体験したいだとかで今日の夜、心霊スポットに行こうとか言い出したんだ」 「へーそりゃ大変ですねぇ」 「おいこのバカわかってねえだろ」 「バカにわかるように説明するのがお前の仕事だろ花宮」 「ついさっき会った人に罵られるのもおかしな話だと思いませんかね」 「チッ…アイツらが行く、つってるところは、俺でもめんどくせえのがいるとこなんだよ。だから、雑魚まで相手してらんねえ」 「あれ?私の発言無視されてます?」 先程からバカと言われまくっているのは腹立たしいが、なにやら面倒くさそうなことに巻き込まれそうな予感がする。 既に逃げたい。だがいつの間にか前にいたはずの黛さんが背後に立ち、退路は断たれている。座っているとはいえ、日本人男性の平均を超えた花宮さんと、同じく180超えはある黛さんに挟まれては、断れもしないわけでして。 「つまり、俺らの負担減らすためにもアンタも協力しろよってことだ。わかったかよバカ女」 「逃がす気はないから安心しろよ」 「私完全に蛇に睨まれた蛙状態」 そこはかとなく感じるゲスの香りに、逃げたいのに逃げられない。なんて恐ろしい者に目をつけられてしまったんだと、ただただ嘆くことしか出来ないのであった。 (141229) |