拾玖




それからはぽつぽつとお互いのことや花宮、ミス研についての話をしながら、結局家の前まで送ってもらってしまった。時計を見ると、案外ゆっくり歩いていたらしく、時刻は午前一時半を過ぎていた。

さっさとシャワーを浴び、寝る準備をしてようやくベッドに入る。久しぶりにあんなに走ったり動き回ったりしたからか、相当疲れていたらしい。すぐに睡魔が襲ってきた。
意識も薄れてきたところで、ピンポン、と軽快な音が耳に届いた。
こんな時間に一体誰が、と思いながらも、枕元に置いてあった携帯の画面を見ると一件の通知。眠たい目を擦りながらそれを見てみると、見慣れない名前がひとつ。
……誰だ、まゆりん☆って。出会い系の人か。

疑問には思いつつも、開いたついでなので内容を見てみる。するとすぐにそれが誰なのかわかった。


『言うの忘れてた。強引に引き摺ってあんな妙なところにまで連れていったのは悪かったな。一応謝っとく。
でもな、花宮が使えるって言ってたのがお前でよかったと思ってる。一回くらい名字と話してみたかったし。こんな形だったが、話せたのは嬉しかった。
それじゃ、おやすみ。』


そういえば、私の連絡先を黛さんと花宮は一方的に知っていたのだった。
にしても、黛さんはそんなに私なんかと話したかったんだろうか。ずっと気になっていたのなら、話し掛けてくれればよかったのに。そう、今日の昼間みたいに。
……昼間のように。


「……」


少し考えてから、返事を打ち込みそれを送った。そっと画面を消し、今度こそ私は眠りに落ちたのだった。


『お二人に振り回された件については許してませんけど、なんだかんだで賑やかで楽しかった気はします。
明日、ちゃんと病院行ってくださいね。まだ心配はしてるんで、結果も教えてください。それでは、おやすみなさい。』


少しの皮肉と、心配を込めて。





次の日、前日の疲れが残っていたのかまともに頭が働かず、色々とミスがあったりもしたがまあなんとかなる。しかし本当に問題となったのはもっと別のことだった。
今まで私はあまり他人を意識したことなどなかった。同じ授業に出席していた者も、顔を見たことあるかもしれないしないかもしれない、程度の認識であった。だが改めて出席してみると、とんでもないことに気が付いてしまったのだ。
花宮が、かなりの確率で同じ講義をとっていたことに。

これほどまでに同じだったと言うのに、なぜ私は今まで気が付かなかったんだろうか。
……そうか。普段の性格がただの好青年で、印象が薄かっただけなんだ。そもそもこの学部は男の比率の方が多い。きっとその影響もあるんだろう。

それはそうとして、現在私は何故か花宮に絡まれている。


「話があるから今日ミス研来いよ」


人の肩に腕を乗せ、それはもうタチの悪い笑みを浮かべて小声でそう呟くのだ。私の顔が盛大に引きつった顔をしていたのは仕方のないことだと思う。とはいえ、今の私は昨日の私とは違うのだ。


「今じゃないとダメなのそれ…?」

「あん?そうに決まってんだろ。あの人いないと始まんねえし」


あの人というのは恐らく黛さんのことなのだろう。要は、私と黛さんがいる場でないと意味がない話らしい。


「……物部さんいるんじゃないの?やだよ……」

「俺がこいつってんだから黙って来いよ。物部ならどうせ来ねえ」


最後にもう一度、念を押すように絶対来いよと囁いた花宮は私からの反論を聞く前にとっととその場から離れていってしまった。そしてまたあの好青年のような笑顔で友人とおぼしき人達とどこかへ行ってしまった。
私の連絡先は一方的に知られているだけで私は知らない。結局本人に断る連絡もできないまま、その日の講義は全て終わった。

とにかく今日は花宮の、物部さんは来ていないという言葉を信じて行くしかない。
気は乗らないが、黛さんが来るなら腕の状態も聞くことが出来る。とにかくそのことだけを自分に言い聞かせて、嫌がる足を無理矢理そちらへと向けた。


これが、再びミステリーを呼び込む事態になるとは、この時の私は思ってもみなかった。


(180310)




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