「えー…っと…つまり、あんたは…未来から来たってこと…?」
「はい」
お兄さんは私の話を聞いてから、頭を抱えてしまった。暫くして、ようやく話した一言が今の言葉だ。
「やっぱりいきなりそんなこと言われたって信じられないですよね」
「いや、そんなこと……」
「気を遣ってくれなくてもいいですよ」
「…ごめんな」
「いえ、それでもお兄さんは最後まで話聞いてくれましたし」
そう言ってみてもお兄さんは申し訳なさそうに項垂れている。けれど私はこうして真剣に聞いてくれただけでも満足だった。きっと私がお兄さんの立場だったら、馬鹿なことを言うなと最後まで聞いてさえいなかったと思う。
「…なんにせよ、あんた行くとこないんだよな」
「あ…はい」
「じゃあ…武田のおっさんとこ行くか!」
「お…おっさん…?」
「武田信玄のとこだよ」
「武田信玄…って…、あっ」
もしかしてあの甲斐の虎とか言われてるあの有名な歴史上の人物だ。確か生きていたのは戦国時代。大体、関ヶ原の戦いより少し前。ということは、永禄3年というのは…
「どうかしたかい?」
「約450年前だ…」
「450年?」
「さっきの永禄じゃわからなかったけど、武田信玄でやっとわかりました!私は…っ、この世界から約450年後から来たんです…!」
いきなり立ち上がったからか、その拍子にずっと握っていた携帯電話がぼとりと落としてしまった。
「…これは?」
お兄さんは携帯を拾い上げて、じっとそれを見つめた。そういえば、携帯はこの世界にはない。だとしたら、お兄さんにとってそれは初めて目にするものだ。
「それ、携帯電話って言うんです」
「携帯…で…んわ?」
「それは遠い所にいる人と話せる機械…カラクリなんです」
「ええ…っ!ホントに!?」
「でも、それと同じものを持ってる相手じゃないと出来ないんですけどね」
電波とかも必要か。
あれ?でもお母さんにメール返信できたよね。でもここって圏外だった。そういえば時間の経過とかはどうなるんだろう。考えれば考えるほどわけがわからなくなってきたぞ。
「うぉっ!?な…なんだこれ!」
「うわあ!な、なにしてんですか!」
突然大音量で音楽が鳴り出した。どうやらお兄さんが勝手に携帯を触って、データフォルダに入っていた音楽を起動させたらしい。大音量でティブロさんのテーマ曲が、緑の大地に流れる様は、なんとも形容しがたい気分にさせた。
なんか、ゲームのフィールドにいる気分だ。
「…じゃなくて、お兄さんそれ返してください!」
「あ、ああ」
「ホントにもう…びっくりしたぁ…」
携帯を返してもらい、BGMを終了させた。思わずため息を付くと、今度はお兄さんがいきなり笑いだした。
「あははははっ」
「な、なんですか?」
「へへっ…いや、今ので俺、あんたが未来の人間なんだってこと、よくわかったよ」
「へ?」
「よし、よくわかったところでおっさんのとこ行こうぜ!」
私の方はよくわかってないが。
だが、納得はしてくれたらしい。ならばもうなにも言うまい。
「そうだ、俺まだあんたの名前聞いてなかったよな」
「はい、私は名字名前って言います」
「姓もあんのかい?」
「あ、そっか…。未来ではみんなあるんです」
「へえ…未来ってすげーな!」
「そうですね。それで…お兄さんは?」
「俺かい?俺は前田慶次!」
「ま、前田慶次!?」
ここにきて、一番の衝撃を受けた。
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