朝、とんでもない爆破音と叫び声で飛び起きた。辺りを見渡してから、まだ私は自分の世界に帰ることが出来ていないことを理解した。
先程の凄まじい音で目が覚めた訳なのだが、それは一体なんだったのか。まずはそれを確認しよう。私は近くにあった羽織を肩にかけ、未だに鳴りやまぬ音の方向へと向かった。
もしかしたら敵襲なのかもしれない、とも思ったが、辺りの人間が出てくる様子はない。ということは敵襲ではない筈。
「うおぉぉお館さむぁぁあああああ!!!」
「幸村ぁぁぁあああ!!!」
「お館さぶああああああああ!!!!」
「幸村ぁああああああああ!!!!」
音のしている方へと向かっていくと、凄まじい叫び声も共に聞こえてきた。
こんな朝っぱらから何事。昔だから乾布摩擦?…それならあんな爆発音が聞こえる筈ないか。
私は叫び声の主であろう人物がいる場所を、曲がり角からそっと覗いてみた。
「うぉぉおおまだまだぁああああ!!!」
「甘いわぁぁあああ!!!」
……なんだこれ。
赤いのが二人で殴りあ…いやいや、ジャイアントスウィング?なにこの不可思議な光景。
よくよく見れば、片方は武田さんだった。そしてもう一人が、
「ぐぉおおおお!!!」
「うっわぁっ!?」
こっちに吹っ飛んできた。そして気絶した。ジャイアントスウィングの威力、恐ろしい。
「ふぅ、やり過ぎたわい…。む、名前」
「あ…おはようございます」
「うむ、おはよう」
清々しい顔で歩いてきた武田さんは挨拶をしてくれた。
「あの、今のは…なんですか?」
「あれか?あれは幸村に喝を入れとったのじゃ」
「…そ…そうですか」
ダメだ、私の脳では理解できない。というかそこでぶっ倒れているこの人は大丈夫なのか。植木に頭突っ込んでるんだが。
それよりもこの人の服装、見たことがある気がする。一体なんだったろうか。
「あーあ、また派手にやっちゃってー」
「あ、猿飛さん、おはようございます」
「おはよ。それより大将、」
「うむ、幸村のことは頼んだ。ワシは朝餉をとってくる。腹が減っては戦は出来ぬからな!」
がははっ、と豪快に笑いながら武田さんは城の中へと姿を消していった。
猿飛さんは武田さんの姿が見えなくなるのを確認してから、植木に刺さっている赤い人を引きずり出した。
そこから出てきたのは、思っていたよりもずっと若い、青年と呼ぶには少し足りないぐらいの男の人だった。しかしなんだ、この人見たことがある。結構頻繁に。
「旦那、大丈夫?」
「う…」
「猿飛さん」
「ん?」
「この人誰ですか?」
わからないことはとりあえず聞いとくのが一番だ。名前を聞けば、なにか思い出すかもしれない。
「ああ、名前ちゃんは旦那とはまだ初対面だっけ」
「はい。どちら様ですかね?」
「真田幸村だよ」
「真田…幸…む、ら」
真田幸村、真田……
「ああああっ!」
「うわなに名前ちゃん」
「あ、いえ、真田幸村…ですね、はい」
猿飛さんは物凄く変な顔でこっちを見ていたが構うものか。
私は思い違いをしていた。ここはずっと、遠い昔だと思っていた。いや、確かにここは昔を舞台にした話ではある。だけど、そうじゃない。やっと思い出した。
ゲーム仲間の友人が言っていたやつだ。確か作品名は戦国バサラ。真田幸村はその中のキャラクターだった。
そうか、だから慶次にも見覚えがあったんだ!私はRPG専門だからわからなかったけど、あの赤黄青の信号みたいなのは覚えてる。
ということはだ、あの友人の最愛キャラの、ルー大し…じゃなくて、やたら英語を使う伊達政宗もこの世界にいるんじゃないのか。
っていうかなんで私、慶次わからなかったんだろう。
「名前ちゃん?」
「あ、大丈夫です。ちょっと考え事してただけなんで」
「ならいいんだけどさ」
猿飛さんは真田さんを引きずり、縁側に乗せた。あれ?猿飛さんって真田十勇士だから、真田さんは主君だよね。いいのかそんなに荒くて。でもここはバサラの世界だしなぁ…
イマイチよくわからないまま、私と猿飛さんは真田さんが目を覚ますまで雑談をしたのだった。
(120309)