近くで見ると、思っていた異常に大きい。おかしいな、昔の人って身長150とか160とかだって聞いたことあるような気がするんだけど。あれ?それなら周囲の皆大きすぎやしないか。
いや、そんなことはどうだっていいか。



「お主が名前か」

「はっ、はいぃ!」



余計なことを考えていたので、いきなり話し掛けられてものすごく驚いた。
背後から猿飛さんのと思われる笑い声が聞こえてきたのはきっと気のせいじゃない。



「前田からある程度の話は聞いとる」

「あ、はい」

「そのような心配そうな顔をするでない!この武田信玄、お主の面倒を見よう」

「…えっ」

「悪いなおっさん!名前ちゃんのこと、よろしく頼むよ!」



身長について考えていたらあっという間に話が纏まった。つまりなんだ、私はこの人に面倒見てもらえるのか。



「ちょっとちょっと大将!」

「佐助。名前は今、右も左もわからぬ状態じゃ。お主も名前の面倒を見てやってくれ」

「マジかよ…」



猿飛さんは武田信玄、いや、武田さんと私とを見比べて、溜め息をついた。そんな二人の会話の最中、慶次はこっそりと私に話し掛けてきた。



「(一応、おっさんにはあんたが未来の人間だって言っといたから)」

「(えっ、そうなの?よく信じてくれたね)」

「(ほら、あの…なんだっけ、携帯…かな。あれ勝手に使わせてもらった)」

「(ああ…そういえば鞄持ってもらったままだったっけ)」



慶次は悪戯を成功させた子供のように、にやりと笑って親指を突きだした。なんだかそれが面白くてつい、つられて此方も笑ってしまった。



「前田、一応佐助にも話しておく。それでよいな」

「へ?あ、ああ、その辺については任せるよ」

「よし、ならば一度この場は納めようではないか。佐助、主に少し話をしておこう。しかしまずは、名前と前田をどこか空いておる部屋へ」

「はあ…了解」



猿飛さんはやっぱり落胆した面持ちで、私と慶次についてくるよう言った。慶次は喜び勇んで先に行く猿飛さんの後を追っていった。私も行こうと思い立ち上がると、武田さんに呼び止められた。



「お主のような若い娘が、このような見知らぬ土地に一人で辛いだろう」

「あ…いや、そんな」

「なにかあれば、すぐに申すのだぞ。後でお主のことは佐助にも話しておく。困った時は佐助を頼るのだ。勿論、ワシでも良い」

「…っ」



真剣な目で私を心配してくれる武田さんに、つい言葉が止まった。
初めて会った、得たいの知れない人間に、こんな風に優しくしてくれるなんて思ってもみなかったからだ。

自分の世界の人々は、見ず知らずの人間に対して、こんなにも優しくすることなんてない。少なくとも私はそうだった。そう考えると、急に胸が熱くなった。

私はその感覚を胸に、武田さんに向かって思い切り頭を下げた。



「ありがとう、ございます…っ」

「…佐助と前田が待っておる」

「はい、…ありがとうございます」



もう一度感謝の言葉を述べ、私は襖の向こうにいるであろう、慶次と猿飛さんの元へと向かった。



正直、まだ自分は夢の中にいるんじゃないかと錯覚させられることが大いにある。だが、溢れる自然、馬に乗った感覚、見知らぬ土地、人々の優しさ。それら全てに、これは現実なのだと教えられる。
ゲームで言えば序盤。だけど、私はもうこれだけで満足だった。


(120209)



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