花とホースと太陽と2
夏休みが終わり、学校は二学期に突入していた。9月になったと言っても未だに暑く、外に出れば汗が止まらない。
だけど今週の花壇への水やりは私の担当だ。放課後とはいえ、未だに暑いあの太陽の下、手入れをするのはなかなか骨が折れる。
ため息を付きながら倉庫で軍手やホース、麦わら帽子を装着し始めた。
「へえ、今週はお前担当か」
背後から聞き覚えがある声が聞こえてきた。この声は、あの夏の記憶を思い起こさせる。
「ま、また出ましたね…っ」
「よぉ、久しぶりだな」
夏休みに意味がわからない行動でびしょ濡れにさせられたあの男が楽しそうな笑みを浮かべながら立っていた。
「そんなことよりなんでここにいるんですか」
「あ?」
久しぶりに顔を合わせたにも関わらず、安定の怖さだ。そしてガングロだ。
「俺は暇してんだよ、相手しろ」
「い、嫌ですよ!今から水やるんです!」
「んなもん後でいいだろ」
「よくないです!」
初回時よりもかなり訳のわからないこの言い様。なんなんだこの人。
…と、誰なんだこの人と考えているけど、実際は知っている。二学期に入って友人に聞いてみたところ、同じ一年でバスケ部に所属している青峰大輝って人だということが判明したのだ。
で、その青峰くんが、さっきからジリジリと距離を詰めてきて結構恐怖を与えてきてる。
「こ、こっち来ないでください!」
「お前が逃げっからだろ」
「いえ、そんな風に近寄ってくるからです!」
その言葉を聞いた途端、青峰くんは嫌な笑みを浮かべて更に近寄ってきた。
やだなにこのいじめっこ。
「ち、近い!近いです!」
「おい」
「な、なんです」
「そんなに俺が怖えかよ」
「はい」
190は超えてるであろう男に壁際に追い込まれたうえに凄まれて、咄嗟に嘘をつくことも出来ず、思わずはいと即答してしまった。これは不味い。
私は例のごとく被っていた麦わら帽子を目深に被り、顔を隠してみた。
「す、すいません調子に乗りました」
「…お前名前なんだよ」
「えっ、名字です」
「クラスは」
これは私のクラスを割り出して、後日に張っ倒そうということなのだろうか。びびってたから普通に名前を言ってしまったけどこれ本当に言ってしまって大丈夫なんだろうか。
「あーまあいい。さつきに聞くし」
「さ、さつき?」
さつきさんとやらがどちら様なのかはわからないけど、私の身辺が割れてしまうのは困る。
だけどそれを阻止する術は私にはないのであって、遅かれ早かれ私はまた捕まることになりそうだ。
「あの」
「あ?」
「とりあえず、退いてくれないでしょうか?」
「……」
「水やり…」
「……」
「……」
もうやだこの人。いきなり無言になるし壁に手付いて逃げられないようにしてくるし怖いし。きっとこの帽子がなかったらいたたまれなくて泣いてた。
「おい」
「は、はい?」
「俺の名前、知ってっか」
「へ?」
「名前だよ」
「あ…青峰くん、ですよね…?」
「それは知ってんだな」
なぜいちいちそんな覗き込んで話そうとするのか。麦わら帽子で隠してるけど、そろそろ視線が痛くなる頃合い。
「も、もういいですか?」
「俺のこと知ってんならいーわ」
「じゃあ退いて…」
「でも俺暇だから相手しろ」
振り出しに戻ってしまった。
「いやだから私水をですね」
「俺の暇潰しに付き合えねえってのかよ」
「私じゃなくてもいいじゃないですか…」
「手頃なやつなんてそんないねーだろ」
「手頃!?」
らちが明かない。
「もうっ、私早く水やらないと帰りが遅くなるじゃないですか!」
「別にいいんじゃねーの?」
「っ、よくないんで退いてくださいーっ!」
「うおっ」
強行突破で麦わら帽子を脱いで、青峰くんの顔に突っ込んだ。怯んだすきに私は走り、丸く収納されたホースを掴んで水道に向かった。ホースを蛇口に突っ込み水をだし、その勢いのまま花壇へダッシュ。
勿論、青峰くんは立ちはだかるわけで、けど私の片手にはホースが握られてるわけで、蛇口は捻って水がでているわけで……
「うわテメッ!ざけんなよ!」
とりあえず水をかけておきました。
すると軽くキレながら、さっき顔に突っ込んでおいた麦わら帽子を盾にしていた。
「青峰くんが邪魔するからですっ」
「んだとコラ!」
このあと、花壇に水をやることはできましたが、結局こっちまでずぶ濡れになりました。
「…またこれ」
「お前が悪いんだろ」
すべてあなたのせいだとはっきり言えばよかったと後悔した。
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前回の続き。また水びたし(笑)
それと間に合わなかったんですが、青峰くん誕生日おめでとう!
(120901)