花とホースと太陽と



茹だるような夏の日差しに思わずため息が出た。汗が額から流れて地面を濡らしたのが視界の端に見えて更に暑さが際立つ。



「あっついなぁ…」



ポツリと呟いて、またつい先程と同じように雑草を花壇から引き抜き始めた。


――…私は桐皇学園で園芸部に所属している。と言っても、園芸部員は片手で足りる程度の人数しかいないため、基本的に自分の担当の週は一人で花壇の世話をすることになっている。それは夏休みでも変わらない。
そして今週は、私の担当なのだ。

四季折々で変わる花の成長を見たり、自分が手入れしたことによって綺麗に咲く花を眺めるのは好きだ。花壇の世話も苦にはならない。
だけど、この暑さにだけはどうしても耐えられない。

暑いのならば、日焼け対策のこの麦わら帽子とアームカバー、軍手に首に巻いたタオル全て取ればいいだけの話なのだが、それはまた別の問題なのだ。



「でもこのあとは水やりだし…よし、がんばろう」







草むしりが一段落したところで立ち上がり伸びをしていると、校舎の影から足音が聞こえてきた。
夏休みの真っ昼間にこんな所にやって来る生徒なんて、そうそういる筈がない。つまり部活動の休憩かなにかなんだろう。

と、思っていたのだが、どうも様子が違った。



「…あ?こんなとこに人いたのかよ」



その人物を視認した途端、咄嗟に私は身構えた。何故なら、そこに現れたのがやたら黒くて背が高い強面の人だったからだ。



「お前なにしてんだよこんなとこで」

「えっ、あ…その、私、園芸部で…花壇を…」



私を無視してそのままどこかに行ってしまうのかと思いきや、彼は丁度建物で日陰になっている部分に座り込んで質問をしてきた。
慌てて答えれば、あー…とどこか気だるそうに唸っていたが、すぐにまた次の質問を投げ掛けてきた。



「暑くねえの?」

「えっ」

「そのカッコ」

「…あ、暑い、です」



よくわからないが、彼は動く気がないらしい。

というかこの人は一体誰。
ランニングシャツに適当な半ズボンではあるけど、多分ここの生徒なんだろう。でなければ普通に話し掛けてくるわけがない。



「つーかさ」

「は、はい?」

「花の世話してたんじゃねえの?」

「あっ、はい、します」



この人の正体を考えてぼーっと突っ立っていたことに疑問を持ったのか、花壇を指差しながらそう言った。

そういえば私は草むしりをしていたんだった。でもそれはさっき終わった。つまり、今からするのは水やりだ。

そのことを思いだし、私は額の汗を首に巻いたタオルで拭いながらホースを巻いた滑車を花壇の側まで移動させ、水の噴射口は花壇の側に伸ばしておいた。
次にホースの反対側を水道に差し込みに行く。水道は校舎の角を曲がった少し離れた場所にあるので、蛇口を捻った後は急いで戻らなければならない。

もう一度額の汗を拭い、ホースを蛇口に差し込み、ホースが取れない程度の水圧で捻った。



「よし…っ」



あとは花壇に戻って水をやるのみ。
こんな炎天下だ、やはり水を使うのは嬉しい。私は早足気味に校舎の角を曲がり、ホースの伸びる先を目で追ったところで動きを止めた。

何故か、さっきの男子がホースを持っているからだ。



「えっえっ」

「あ?」



彼が横目でこちらを見た瞬間だった。上を向けていたホースから水が一気に溢れだしたのは。
しかもホースの先を彼は押さえていたのか、水はかなり上の方にまで飛び、それは見事な虹がかかった。そして、飛沫になって降り注ぐ、水。



「な、なにし…っひゃあ!」



何故かホースをこっちに向けてきた。勿論先程と同じように、ホースの先を押さえながら。
つまり、水を思いっきりかけられた。



「…っ、なにするんですか!」

「あちぃから」

「それ貴方が暑いんでしょう!?」



慌てて被っていた麦わら帽子で勢いよく噴射される水をガードしながら叫んだ。普段ならこんな怖い人に文句を言うことはないけれど、流石にこれは言わざるを得ない。
加害者はというと、そんな私を見て笑っていた。



「お前暑いつったろーが」

「い、いや、だからってこれおかしいですよね!?っていうか暑いって私の話だったんですか!?」

「あと見てて暑苦しい」

「なら見なければいいじゃないですかーっ!」



未だに水をかけてくる彼に理不尽さを覚えながらも、なんとか回避しようと移動してみるがやっぱりかけてくるのでどうしようもない。
こうなれば蛇口を締めるしかないのだが、そこに行くにはいつの間にか入れ替わっていたこの人をすり抜けるしかない。さあどうしよう。

と、濡れてしっとりしてきた麦わら帽子を握りながら考えていると、やつは突然ホースを地面に向けてじりじりと詰め寄ってきた。



「な、なんですか…っ」

「お前よくみりゃ結構胸あんな」

「……は?」



手にしていた麦わら帽子が落ちた。

そして、その隙を狙ったかのように顔に水がかけられたのだった。





その後、ホースを返してきてそのままどこかに消えていこうとしたので、呆気にとられていたけど、色々言いたいことがあったので前に踏み込んだ。と同時に手に力が入ってしまい、ホースの先端から水が勢いよく飛び、背中にかけてしまったのは言うまでもない。




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水ぶっかけられる話。青峰がいるのは桃井に無理やり連れてこられたとかそんな理由。名前変換がないという。
(120731)



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