強制連行
日本のクリスマス、それは私のような人間には関係のない行事である。何故なら、そこかしこでいちゃいちゃいちゃいちゃするカップル共が蔓延る、不愉快なものだからである。本来なら家から一歩も出ない予定だった。だがしかし、友人達とリア充爆発しろの会をすることになったので、家から出ることになったのである。
一応ここで弁解しておくが、リア充爆発しろの会はクリスマスに便乗しているわけではない。…多分。
そんなわけで現在、友人の家への道程を歩いている訳なのだが、
「なにこの人の多さ…」
友人宅は確かに百貨店やら飲食店やらが多くある地区なのはわかる。だがこれは流石に多すぎるだろう。カップルの量もさることながら、家族連れや友人同士等の人で溢れ返っている。
人ゴミが苦手な私がこの人の波を越えていくのは、最早至難の技である。さあどうしてくれよう。このままでいくと、リア充の波に押し潰されてしまう。
「だからクリスマスなんて嫌いなんだよー…」
大きく溜め息を付いてから、どうにか人の波を回避する方法はないかと思い、周囲を見渡した。
――どこを見ても人、人、人。しかもみんな幸せそうな顔で、誰かと一緒に歩いている。なにが楽しいんだと、そろそろムカついてきた所で、一人、異様なオーラを放つ人間が歩いていることに気が付いた。
綺麗な顔はしているが、それを打ち消すかのようなしかめっ面、幸せどころか怒りのオーラを発している人間だ。
「…石田くんだ」
その発している人間というのは、同じクラスの石田くんだった。冬休みに入っているので、来年まで見ることはないと思っていた石田くんは相も変わらずの仏頂面。しかも一人ときている。
学校でもあの調子なので、周りにはクールだとか言われてそれなりに人気はあるようだが、生憎、私みたいな人間は怖くて近付けない。なので、一度も話したことはない。きっとあちらも、私のことは記憶にすらないだろう。大丈夫だとは思うが、万が一気付かれて挨拶する羽目になるのも面倒である。
私は意を決して人混みの中に突入し、友人宅へと向かおうとした。
「おい貴様」
向かおうとしたが向かえなかった。何故なら、さっきまで結構遠くにいた筈の石田くんが瞬間移動をしたのかというようなスピードで私の腕を掴んでいたからである。
「私から逃げられると思っていたのか」
「え、え、いや…その」
なにこの威圧感。ものすごく怖い。なんでキレられてんだ私。でも私は逃げたわけではない。いやそれは確かに逃げたようにも言えるが、私は友人宅へ向かおうとしただけであって、そういうわけではないのだが、何分睨まれている為、弁解しようにも出来ない雰囲気である。
やべ、寒い筈なのに変な汗出てきた。
「貴様…」
「は、はい…?」
「名字だったな」
名前を知っていただと。
と思ったら、石田くんは掴んだ私の腕を引っ張って移動し始めた。私の行きたい方向とは逆の方向へ。私はというと、殺されるんじゃないかとか考えていて最早涙目である。
キレながら歩く石田くんに、半泣きで引き摺られる私。端から見れば一体何事かと思う事だろう。それはむしろ私が聞きたい。
「異論は認めない」
「は?」
「貴様は今から私の手助けをしろ」
「え?あの、は?」
意味がわからない。何の手助けですか、殺しのですか。とりあえず掴まれてる腕が痛すぎて折れそう。
「半兵衛様に命ぜられたのだ。ケーキを買ってこいと」
どうやら石田くんがこんなところで歩いていたのにはそういう訳があるらしい。だがしかし、私が捕まっている理由がわからないんですが。
…待てよ、さっき私に手助けをしろと言っていた。ということはつまりなんだ、
「ケーキ買うのに、付き合えってこと…ですか…?」
「…フン」
「ああ…そうだったんですか…」
殺される訳じゃないならまあいいか。
「って、ちょっと待ってください!」
「…」
「私友達の家に行…」
「黙れ女。異論は認めないと言った」
「すいません」
凄まれて結局付き合わされた。
友人に隙を見計らって電話をし、その主を伝えた所「この裏切り者ー!」と叫ばれた。違う、私は巻き込まれただけだ。
「貴様、私に隠れて妙な真似をするな。斬滅されたいのか。さっさと選べ」
「ええええ…」
散々なクリスマスであった。
だが、曲がりなりにも男の人と出掛けるのは気分の良いものではあった。
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石田さんがイライラしてるのは人が多いからです。
(111225)